だこ)” の例文
龍造寺主計は、やっこだこのような、のりのこわい佐吉の浴衣ゆかたを、つんつるてんに着ていた。毛だらけのすねを出して、笑っていた。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
東京の復興を目がけて地方から押し寄せた連中は、皆引っぱりだこにされていたのである。只釘を打ってのこぎりを使えれば大工で通る。わらさえ刻めば左官で通る。
そうした家庭の主婦である鎌子の夫は、子爵故曾禰荒助そねあらすけ氏の息で、若く華やかな貴公子連の間にも名高い、寛濶派手者かんかつはでしゃで、花柳界に引張りだこのお仲間であった。
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
荊州は両国からひッぱりだこになったわけである。いずれを選ぶも劉表りゅうひょうの胸ひとつにある。こうなると劉表は慾目に迷って、かえって大勢の判断がつかなくなった。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「車のナンバーも覚えてないし、僕の印象に残っているのは、狂いだこのような標識の動きと、畠に倒れた女の姿だけだからね。齢は三十前後で、かなり美人だった」
狂い凧 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
一流の貴婦人たち——将官夫人が二人と大佐夫人が一人、それに婦人という婦人が、猫も杓子しゃくしも加勢して、四方から令嬢を引っ張りだこにして御機嫌を取りにかかった。
あらゆる地方から引張りだこになったばかりでなく、その磨き抜かれたヴァイオリン音楽は、ビクターの赤盤に吹き込まれて、驚異と讃歎とを日本にまで舶載したことは
そのまえに、三根夫少年はみんなからだこだった。三根夫が一日はやく怪星ガンの町を見てきているので、町のようすについて三根夫はくわしく答えることができた。
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
技倆ぎりょうの卓越した人であるだけに、この近所で引っ張りだこになっていて、毎日夜の十一時過ぎまで夜食にも戻らずに往診に廻っていると云う風なので、つかまえるのが容易でなかった。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
雑夫が、漁夫、船員の間に、引張りだこになった。「安坐あぐらさ抱いて見せてやるからな」
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
労働者のオーベルは、学び知った人道主義と本能的な排外主義との間に引張りだことなって、気も狂わんばかりだった。幾晩も眠らずに考えた後、ついにすべてを片付ける一つの方式を見出した。
お孝のたもとつかまりながら、直ぐ目の前なを、爪立って覗くように、と見ると、比羅紙びらがみの、およそ二枚だこぐらいな大きさの真中まんなかにぼつりぼつりと筆太に、南無阿弥陀仏なむあみだぶつ、と書いたのが、じめじめとして
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
空前、断然、売れる、売れる、到るところ引張りだこ
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
もうそのころ羽左衛門は昔日むかしの若造でもなければ、負債があるとはいえ、ひっぱりだこの青年俳優であった。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ところが一方に吾輩が総督府を飛出して、水産組合を作ったという評判は、たちまちの中に全鮮へ伝わったらしいんだね。到る処から「おやじおやじ」の引張りだこだ。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「今日は、皆の引張ひっぱだこになったから、疲れたんですよ。まあこの可愛いいアンヨは」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いつも俄雨にわかあめがあると、蘆屋じゅうの自動車が引っ張りだこになるので、貞之助の注意で直ぐに電話をして置いたのであるが、三人の身支度が出来上って、五時十五分が二十分になっても
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
暴風の如き売行き、引張りだこ
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)