すず)” の例文
すずしい風の来るところを択んで、お福は昼寝の夢をむさぼっていた。南向の部屋の柱に倚凭よりかかりながら、三吉はお雪から身上みのうえの話を聴取ろうと思った。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
菅子はもうそこに、袖を軽く坐っていたが、露の汗の悩ましげに、朱鷺とき色縮緬の上〆うわじめの端をゆるめた、あたりは昼顔の盛りのようで、あかるい部屋に白々地あからさまな、きぬばかりがすずしい蔭。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
五寸も距離があり身体は地球から二、三寸上を、人魂ひとだまの如くフワリフワリと飛んでいる如く感じられてならぬ、心常に落付かない、その代り夏は葦張よしずばり、風鈴、帷子かたびらの如くすずしい
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
おまっちゃんは露路の方をめて泣きたいのを堪えていた。大紙屋の白壁蔵の壁には大きな亀裂ひびあとがあって、反対の算盤屋そろばんやの奥蔵は黒壁で、隅の方のこんもりした竹がすずしく吹いている。
なかあそびのみちすずしきは酔哭ゑひなきするにありぬべからし (同・三四七)
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
三吉は、南の窓に近く、ハンモックを釣った。そこへ蒸されるような体躯からだを載せた。熱い地の息と、すずしい風とが妙に混り合って、窓を通して入って来る。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
重い戸を閉めて置いて、三吉は蔵の石階いしだんを下りた。前には葡萄棚ぶどうだなや井戸の屋根がすずしそうな蔭を成している。横にある高い石垣の側からは清水も落ちている。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼女はその静かさを山家へ早くやって来るような朝晩のすずしい雨にも、露を帯びた桑畠くわばたけにも、医院の庭の日あたりにも見つけることが出来るように思って来た。
ある女の生涯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
豪爽ごうそう感想かんじのする夏の雨が急に滝のように落ちて来た。屋根の上にも、庭の草木の上にも烈しく降りそそいだ。すずしい雨の音を聞きながら、今昔こんせきのことを考える。
並木 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
何分にものお暑さ、それに種夫さん同道とありては帰りの旅も案じられ候につき、今すこしくすずしく相成り候まで当地に逗留とうりゅういたさせたく、私より御願い申上げまいらせそろ
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
すずしい草屋根の下に住んだ時とは違って、板屋根は日に近い。壁は乾くと同時に白くかびが来た。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そうでなくても、朝からすずしい夏の雨が降って、出掛けられそうな空模様には見えなかった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その晩、三吉は直樹やお福を集めて、すずしい風の来るところで話相手に成った。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)