冴々さえざえ)” の例文
小腰をかがめておうな小舞こまいを舞うているのは、冴々さえざえした眼の、白い顔がすこし赤らみを含んで、汗ばんだ耳もとからほおへ、頬からくび
大橋須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
彼は光の抜けて行く寒い空の下で、不調和なな物に出逢った感じよりも、すすけた往来に冴々さえざえしい一点を認めた気分になって女のくびあたりを注意した。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ところがいざ目を閉じてみると、どうしたものか、逆に頭が冴々さえざえとしてきて、睡るどころではなかった。
ヒルミ夫人の冷蔵鞄 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
今夜の貴方あなたの御声というものは、実に白蓮びゃくれんの花に露がまろぶというのか、こうその渓川たにがわの水へ月が、映ると申そうか、いかにもたとえようのない、清い、澄んだ、冴々さえざえした
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
浴後ゆあがりの顔色冴々さえざえしく、どこに貧乏の苦があるかという容態ありさまにて男は帰り来る。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
きょうのように、あざやかに富士の見える日ほど、風ももう冴々さえざえと肌ざむい。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これまではものうくばかり観じていた世の中が俄かに面白くなり、出逢おうとも思わなかった愉快のために頭まで冴々さえざえとし、いっそのこと、この少女を家に入れて妻にしたらと考えるようになった。
湖畔 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
目のさめて待てば遅しも冴々さえざえしふくら雀の朝のさへづり
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
すると若殿様はまた元のように、冴々さえざえした御笑声おわらいごえ
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いちゃんと云う子がいる。なめらかな皮膚ひふと、あざやかなひとみを持っているが、ほおの色は発育の好い世間の子供のように冴々さえざえしていない。ちょっと見ると一面に黄色い心持ちがする。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
前垂れの友禅ゆうぜんちりめんが、着物より派手な柄だから揃っていると綺麗だった。春の夕暮など、鬼ごっこや、目かくしをすると、せまい新道に花がこぼれたように冴々さえざえした色彩いろが流れた。
空の星も晃々きらきらとして、二人の顔も冴々さえざえと、古橋を渡りかけて、何心なく、薬研やげんの底のような、この横流よこながれの細滝に続く谷川の方を見ると、岸から映るのではなく、川瀬に提灯が一つ映った。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
軍艦と同じように、時鐘が、冴々さえざえと響きわたる。
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
色光沢もほとんど元の様に冴々さえざえして見える日が多いので、当人も喜こんでいると、帰る一カ月ばかり前から、又血色が悪くなり出した。然し医者の話によると、今度のは心臓のためではない。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ひげひねって、冴々さえざえしい。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)