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信吉
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しんきち
信吉は、あの
人たちも、もうこの
町を
去ってしまったと
思いました。
夜になると、
裏の
野菜圃で、うまおいの
鳴く
声がきこえました。
我が
家でも、
日ごろからほしいと
思った
牛を一
頭買ったと
書いてありました。
信吉は、
心の
中で、
幾たびも
万歳を
叫んだのであります。
と、
主人は、
諭すように、いったのでした。これを
聞いたときに、
信吉は、いままでの
自分の
意気地なしが、
真に
恥ずかしくなりました。
都会のあるくつ
店へ、
奉公にきている
信吉は、まだ
半年とたたないので、なにかにつけて
田舎のことが
思い
出されるのです。
信吉はそれを
見ると、一
種の
哀愁を
感ずるとともに、「もっとにぎやかな
町があるのだろう。いってみたいものだな。」と、
思ったのでした。
「おじさん、そんならほかにも、
金の
鶏が
浮く
池があるんですか。」と、
信吉は、
不思議そうに、
紳士を
見上げたのでした。