侍者じしゃ)” の例文
さむらいはすなわち「さむらう」で、貴人の左右にさむらうて、その用を弁ずる賤職である。今で云えば侍者じしゃすなわち給仕である。
冬でも着物のまま壁にもたれて坐睡ざすいするだけだと云った。侍者じしゃをしていた頃などは、老師の犢鼻褌ふんどしまで洗わせられたと云った。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
右馬介は侍者じしゃとして、急に自分のよいをさました。ここは錦小路の、俗に“請酒屋うけざかや”とも“小酒屋”ともよぶ腰かけ店だ。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
13 酒姫——酒のしゃくをする侍者じしゃ。それは普通は女でなくて紅顔の美少年で、よく同性愛の対象とされた。
ルバイヤート (新字新仮名) / オマル・ハイヤーム(著)
降将李陵は一つの穹盧きゅうろと数十人の侍者じしゃとを与えられ賓客ひんきゃくの礼をもってぐうせられた。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
差上げた花束を侍者じしゃに持たせて、人ごみの出口で後から、とてもはっきりとした声で私の名を呼ばれ、笑い顔で帽子をつまみあげられた元気さに、今年五月早大内の演劇博物館で挙行される
古い暦:私と坪内先生 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
すなわち五鬼は五人の山伏の家であろうと思うにかかわらず、前鬼後鬼ぜんきごきとも書いてえん行者ぎょうじゃの二人の侍者じしゃの子孫といい、従ってまた御善鬼様などと称して、これを崇敬した地方もありました。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「はい。権大ごんだいノお局さまと、三位ノ廉子さまへ、また侍者じしゃのお二人へも、それぞれ、そっとお手わたししておきました」
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わざわざ注意があったので、宗助は礼を云って手紙を受取りながら、侍者じしゃだの塔頭たっちゅうだのという自分には全く耳新らしい言葉の説明を聞いて帰ったのである。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
役僧の維那いのが、お剃刀かみそりを持って立つ。侍者じしゃ耳盥みみだらいを捧げ、都寺つうすくしをとって、魯達の髪の毛を九すじいてつかね分ける。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この間まで侍者じしゃをしていましたが、この頃では塔頭たっちゅうにある古い庵室に手を
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ほかにも侍者じしゃは大勢なのに、特に道誉を名ざしたのはどういうわけか。高氏には気にかからぬこともない。しかし道誉はつつしんで、台座へ答えた。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
侍者じしゃ小間使いなどまで付けて、賓客ひんかくの扱いであるのみでなく、花栄が一日の軍務から帰邸すると、夜ごと夜ごとが、家庭的歓迎の宴みたいであった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、その広い地域をななめに、法印良忠は、きれいな小姓やら侍者じしゃを連れて、これへ来るなりすぐ地に仆れている居酒屋のおやじの姿に目をとめていた。
御車の六波羅発門は、午前十時と布令ふれ出されている。まだ早めとは思われたが、道誉の催促を知ると、後醍醐はやおら、三人の妃、二人の侍者じしゃをかえりみて
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
東寺とうじの長者、文観もんかん上人の侍者じしゃです。それが浄土寺と東寺とうじのあいだを、ひそかに往来いたしたもようなので」
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小山と共に帰って来た千種忠顕と一条行房のふたりも、その夕からは、帝の侍者じしゃとして、おそばにかしずいた。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その後醍醐以下、侍者じしゃの公卿や典侍てんじらの身をあずかってから、すでに早や一年ちかくにはなるが、隠岐ノ判官清高の立場は、一日も心のやすまるひまはなかった。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
正面には長老、首座しゅそ、以下順に東西二列となって、紫金紅金しきんこうきん袈裟けさ光りもまばゆく立ち流れて見えたのは、維那いの侍者じしゃ監寺かんす都寺つうす知客しか、書記らの役僧たちか。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
帝の寵妃ちょうひ、三位ノ廉子やすこなのである。すぐ内からは、侍者じしゃの千種忠顕ただあきが、侍者ノ間からいらえて出て来た。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「——先帝が、いちど道誉を見たいとか仰せられたよし、侍者じしゃのお内沙汰ないざたにございますが」と。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひとつには、侍者じしゃの行房と忠顕が、今宿からは、帝のおそばにいなかったせいもある。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一室に入って、高時の侍者じしゃに会い、また典医の口から、高時の容態も聞きとった。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とくに兄の一条とう大夫たゆう行房は、隠岐配所おきはいしょにまでお供をして、始終、帝とあの一ト頃の艱苦を共にした侍者じしゃの一人でもあったから、還幸の後は、みかども、いちばい行房にはお目をかけられ
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
後醍醐は、侍者じしゃの狂喜していう伝奏に、ふと暗中の御気配をゆるがして
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、二人の侍者じしゃは、今日の仰せ出しを特に意外としたのだった。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)