仕末しまつ)” の例文
「いいの。あたしは、きちんと仕末しまついたします。はじめから覚悟していたことなのです。ほんとうに、もう。」変った声でつぶやいたので
姥捨 (新字新仮名) / 太宰治(著)
しかし、こういう身の中の持ちものを、せめて文章ででも仕末しまつしないうちは死に切れないと思った。机の前で、よよと楽しく泣きれた。
桃のある風景 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
馬鹿らしい独言ひとりごとを云って机の上にらばった原稿紙かみふるペンをながめて、誰か人が来て今の此の私の気持を仕末しまつをつけて呉れたらよかろうと思う。
秋風 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
巡査にそんな力は与へられてゐないので、二人は仕末しまつに困つて、ぶつ/\言ひながら引揚げたさうだ。
「ウン、分っている。しかしマアうっちゃって置いて呉れたまえ。自分のことは自分で仕末しまつをつけるよ」
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
洋行も口にはいいやすいが、いざこれを実行する段になると、多年住みふるした家屋の仕末しまつをはじめ、日々手に触れた家具や、嗜読しどくの書をも売払わなければならない。
西瓜 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
上の方に攀登よじのぼるのに綱を頭上の巌にヒョイと投げかけ、それを足代に登りかけると上の巌が壊れて崩れかかるという仕末しまつで、その危険も一通りや二通りではありません
越中劍岳先登記 (新字新仮名) / 柴崎芳太郎(著)
とうさんの田舍ゐなかには『どうねき』などといふ言葉ことばもあります。もう仕末しまつにおへないやうなひとのことを『どうねき』とひます。こんな言葉ことば木曾きそにだけつて、ほか土地とちにはいのだらうかとおもひます。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
あと仕末しまつはトヨ公が、いやな顔一つせず、ねんごろにしてくれました。それ以来、僕とトヨ公は、悲しい友人になりました。
女類 (新字新仮名) / 太宰治(著)
いっしょになって心配してやらねば不親切だといってヒガむし、そうかといって心配すればキリがいし、仕末しまつに悪い。
良人教育十四種 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それから、彼は物置部屋に引返して、梯子を上げ、石のふたと床板を元通りに直し、斎藤老人の死骸の仕末しまつをした。どんな風に仕末したかは、やがて間もなく分る時が来る。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
郊外に隠棲している友人が或年の夏小包郵便に托して大きな西瓜を一個ひとつおくってくれたことがあった。その仕末しまつにこまって、わたくしはこれを眺めながら覚えず口ずさんだのである。
西瓜 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そして殆ど犯人をつき止めたのですが、ただ一つ死体の仕末しまつが分らないために、その筋に申出もうしいでることを控えていた訳でした。それが今のお話しですっかり分った様な気がします
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
仕末しまつが悪いよ。とにかく、伊藤。先生のあとを追って行って、あやまって来てくれ。僕もこんどの君の恋愛には、ハラハラしていたんだが、しかし、出来たものは仕様が無えしなあ。
女類 (新字新仮名) / 太宰治(著)
口をついて出る、むかしの教師の名前、ことごとくが、匂いも味も色彩もなく、笠井さんは、ただ、聞いたような名前だなあ、誰だったかなあ、を、ぼんやり繰りかえしている仕末しまつであった。
八十八夜 (新字新仮名) / 太宰治(著)
しかし、不思議なのは、腕丈けなら人目につかぬ様に持帰る事も出来たでしょうが、京子さんの死骸……イヤ、死骸と極った訳ではないのですが……その京子さんの身体をどこへ仕末しまつしたか。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
仕末しまつに困る。芭蕉も凡兆も、あとをつづけるのが、もう、いやになったろう。それとも知らず、去来ひとりは得意である。草取りから一転して、長き脇指があらわれた。着想の妙、仰天するばかりだ。
天狗 (新字新仮名) / 太宰治(著)
犯人達の顔さえはっきりは覚えていないという仕末しまつです
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)