傾き切った屋台骨を踏まえている身になってみると、いろいろの誹謗ひぼうが出るのはやむを得まい、井伊掃部頭いいかもんのかみを見てもわかることだわな
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この好文亭は水戸烈公が一夜忽然こつぜんとして薨去こうきょされたところで、その薨去が余り急激であったため、一時は井伊掃部頭いいかもんのかみの刺客の業だと噂されたという事だ。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
彦根ひこねよりする井伊掃部頭いいかもんのかみ、江戸より老中間部下総守まなべしもうさのかみ林大学頭はやしだいがくのかみ、監察岩瀬肥後守いわせひごのかみ、等、等——それらのすでに横死したりまたは現存する幕府の人物で
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しきりに咳をする松平三河守、癖でやたらに爪をかんでいるのが、彦根侯ひこねこう井伊掃部頭いいかもんのかみ——子孫が桜田の雪に首を落とそうなどとは、ゆめにも知らないで。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その翌年、私の二ツの時は安政の大地震おおじしん、三年は安政三年の大暴風——八歳の時は万延元年で、桜田の変、井伊掃部頭いいかもんのかみ御首みぐしを水戸の浪士が揚げた時である。
攘夷論の鋒先洋学者に向う井伊掃部頭いいかもんのかみはこの前殺されて、今度は老中の安藤対馬守あんどうつしまのかみが浪人にきずを付けられた。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
中にも細川家では、元禄年中に赤穂浪人を預り、万延元年に井伊掃部頭いいかもんのかみを刺した水戸浪人を預り、今度で三度目の名誉ある御用を勤めるのだと云って、鄭重ていちょうの上にも鄭重にした。
堺事件 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
この時に当って四囲の福沢先生に対する圧迫はなかなか盛んなものであった。井伊掃部頭いいかもんのかみの京都に於ける「クーデター」に依て、一時攘夷家じょういか達は閉息したのである。京都も閉息した。
幕府にあっては、内憂外患のとき、当一ツ橋様におかれては、御大老井伊掃部頭いいかもんのかみ殿の刺殺しさつせられた後をうけて、将軍家のご後見となり、幕政御改革に、夜も、安らかに、御寝ぎょしんなされぬとれ承る。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ことに最近、嘉永年間に起ったのは、京都のある事業家が発起となって、浅野中務大輔あさのなかつかさたいふがさんかし、彦根の井伊掃部頭いいかもんのかみと打合せをするまでになっていた。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そこは彦根ひこねの城主井伊掃部頭いいかもんのかみも近江から江戸へのかえりに必ずからだを休め、監察の岩瀬肥後も神奈川条約上奏のために寝泊まりして行った部屋である。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
するとここに不思議なことには、井伊掃部頭いいかもんのかみさまの信任厚い町奉行、池田播磨守はりまのかみの用人や、加役の組下、三めぐりの旦那方などの下を働く者のあいだに、実に奇妙な変死が絶えない。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あるいは後年にいたって大老井伊掃部頭いいかもんのかみは開国論を唱えた人であるとか開国主義であったとか云うような事を、世間で吹聴ふいちょうする人もあればほんあらわした者もあるが、開国主義なんて大嘘だいうそかわ
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
こういう時であります。ここに於て幕府は進退きわまって、その当時の名高い井伊掃部頭いいかもんのかみ直弼なおすけ〕を大老にして、しかして京都に有名なる大獄を起して、近来の言葉で言えば「クーデター」をやった。
このくらいならむしろ蛮勇の井伊掃部頭いいかもんのかみが慕わしい。天下の政治を人気商売として優倡ゆうしょうの徒に委するに似たり、と勤王系の志士が冷罵したのを兵馬は覚えている。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
岡部駿河守おかべするがのかみらをはじめ奸吏かんりども数多くこれありて、井伊掃部頭いいかもんのかみ安藤対馬守あんどうつしまのかみらの遺志をつぎ、賄賂わいろをもって種々奸謀かんぼうを行ない、じつもって言語道断、不届きの至りなり。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
桜田御門外はさいかち河岸がし、大老井伊掃部頭いいかもんのかみ様お上屋敷の奥深い一間である。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
井伊掃部頭いいかもんのかみが押えていた時分は、徳川幕府も力がありましたけれど、昨今のように、アメリカも尊敬しなけりゃならん、ロシアも一目置いた方がいい、諸国の浪人者に対しても
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あの小高い木の間に白い壁がちらちら見える、あれが井伊掃部頭いいかもんのかみの彦根城だ。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)