久遠くおん)” の例文
この五百年の間に皮相な慾望で塗り籠められた人間の久遠くおんの本能慾が、どうして鬱積せずにいるものぞ。それを担って生れたのが自分なのだ。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
生々せいせい久遠くおんの美と光をもつ日輪のまえに、悩むこと、惑うこと、苦しむこと、何一つ、価値があると思えるものはない。——笑いたくさえなる。
「鼻って誰の事です」「君の親愛なる久遠くおん女性にょしょうの御母堂様だ」「へえー」「金田のさいという女が君の事を聞きに来たよ」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
つまり、あの世の生命についてのえりぬかれた聖句で、たとえば、「かれら神の家に入る」とか、「久遠くおんの光りかれらを照らせ」とかいうのであった。
壬申の乱平定して八年の五月、皇后ならびに諸皇子を召して、久遠くおんの和を誓盟された有様がしるされてある。即ち
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
『グリム童話』は「久遠くおんの若さ」に生きる人間の心のかてである。『グリム童話集』を移植するのは、わが国民に世界最良書の一つを提供することである。
『グリム童話集』序 (新字新仮名) / 金田鬼一(著)
それは久遠くおんの昔に果されてしまったことなのである。既に早く仏が正覚しょうがくを取ってしまったというからには、美醜の二を超えることが成就じょうじゅされてしまっているのである。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
この一瞬間の、寂然じゃくねんたるあたりのたたずまいは、さながら久遠くおんへつづくものと思われました。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
いずれにしても二人以外の特異体質の闡明せんめいは、久遠くおんの謎として葬られなければならなかった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
社殿そのものも、天空高くきよめられたる久遠くおんの像と、女神の端厳相たんげんそう仮現かげんする山の美しさを、十分意図にいれ、裏門からの参詣道を、これに南面させて、人類の恭敬を表示したところの
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
自分の心の故郷ふるさとであり、見たこともないところの、久遠くおんの恋人への思慕である。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
五百の乞食上りの比丘びくが、北洲に往って、自然成熟の粳米を採り還って満腹賞翫したので、祇陀ぎだ太子大いに驚き、因縁を問うと、仏答えて、過去久遠くおん無量無数不可思議阿僧祇劫あそうぎこうと念の入った長い大昔
動かざる、久遠くおんの真理を、いますぐ、この手で掴みたかった。
いときらびやかなる女人の像は久遠くおんである
醜面女人 (新字新仮名) / 今野大力(著)
世はまさに、天龍寺の建立こんりゅうにかけた祈願きがんにこたえて、久遠くおん華厳法相けごんほっそう四海平和が地に降りてきたかのような観がある。——
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
換言すれば彼が生存のとき、果さんとして果しえなかった内奥ないおうの願、祈念、これを死が明確に語ってくれるのである。灰燼と絶滅から人間の生命は久遠くおんとなるであろう。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
精神的に「久遠くおんのわかさ」を保つことによって、人間は人間としての全的活動をいとなむ。
『グリム童話集』序 (新字新仮名) / 金田鬼一(著)
人の世の果敢無はかなさ、久遠くおん涅槃ねはん、その架け橋に、わたしは奇しくもいこい度い……さあ、もう何も言わないでね。だいぶ暗くなったから、燈でもつけて、それからおときでもお隣の聖におあげなさい
或る秋の紫式部 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
いいかな、ここに、久遠くおんの女性を求めようとする一人があったとしよう。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
この地に久遠くおんのあこがれを抱くであろう
立待岬にいたりて (新字新仮名) / 今野大力(著)
田野でんや貧屋ひんおくに馳せ、ままならぬ世態と、国の久遠くおんの先の先まで、憂いかなしみ、また信じたり希望したり、そして酒も尽き興もつきれば、詩を吐いて
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
愛惜の情と信心とが、荒廃のうちにひそむ久遠くおんのいのちを一挙に感得したといえないだろうか。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
それが、神ならでは知らぬ久遠くおんの謎のように彼を悩ました。
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
世は長く人の生は短い。その永遠にかけてここの生命を無意義にはさせまい。われら短いはかない者を久遠くおんのながれにつなぎとめて後世ごせ何らかのかがみとなって衆生におう。世をうらむこともない。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何ものかを久遠くおんの地上に描きのこして最期の枕を並べるであろうと思う。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
老公の寿碑じゅひの文が明らかに久遠くおんへ向っていっているではないか。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
久遠くおんの宇宙へ、今を呼びかけるような声だった。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)