下手べた)” の例文
め廻した時は、さしも戦い下手べたの同勢も、非をさとって形を変え、五弁の花がしんをつつむように、この敵ひとりを囲み込んでいた。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
チャイコフスキーの指揮しき下手べたはきわめて有名で、それから二十年間決して指揮棒を手にしなかったほどである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
何もぜいたくを言うのではないが、しょうに合わないところではまったく駄目な、いたって融通のきかない、愚直と言おうか、よくよく世渡り下手べたに生れついた俺たちなのだろう。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
なぜならば、実行に先立って議論が戦わされねばならぬ時期にあっては、労働者は極端に口下手べたであったからである。彼らは知らず識らず代弁者にたよることを余儀なくされた。
宣言一つ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
絶えずそれを羞恥しゅうちしたごとく、彼のように短身矮躯わいくで、かつ不具に近い近眼の隻眼者せきがんしゃで、その上に気むずかし屋の社交下手べたであったことから、至るところ西洋の女性にきらわれ通していた男が
こういうのでないと、よい出汁が出ないのであります。削り下手べたなかつおぶしは、死んだ出汁が出ます。生きたいい出汁をつくるには、どうしても上等のよく切れる鉋を持たねばなりません。
日本料理の基礎観念 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
「なあに、いいってことよ。おれもつき合い下手べたで、このごろ、だれにも逢わねえ——御無沙汰ごぶさたはおたげえだ。それにしても、吉、美しい親分を持って、さぞ、働き甲斐があるだろうな——」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
つきあひ下手べたの三田でも、珍しいといふのが一徳いつとくで、會場では存外もてた。殊に最近迄新聞に連載されてゐた小説の作者だといふのが、人々の好奇心をそゝつた。食堂では田原と並んで席に着いた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
今一つ妙な癖は指物さしものが好きで、ひまさへあれば何かこつ/\指物師の真似事をしてゐたが、手際はから下手べたな癖に講釈だけはひとばいやかましく、かんなのこぎりなどは名人の使つたのでないと手にしなかつた。
活け下手べたの椿に彼方あちら向かれけり 蓼太りょうた
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
(6) 交際下手べたな夫
良人教育十四種 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「こりゃ、そちは幻術げんじゅつをやるだろうが、諜者ちょうじゃはから下手べたじゃの。さぐりにかけては、まだそこにいる男のほうがはるかにうまい」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よく主婦の料理下手べたを非難するもののあることを耳にするが、一家の主婦に料理の上手を求めようとするほどの者は、まずもって求める者以上に、主婦をしてよい料理体験をなさしめることである。
葉子の期待は全くはずれてしまった。役者下手べたなために、せっかくの芝居しばいが芝居にならずにしまった事を物足らなく思った。しかしこの事があってから岡の事が時々葉子の頭に浮かぶようになった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
彼は処世下手べたでも、決して世にすねたり、逆剣をつかう人でなかった。独行道どっこうどうの冒頭に、「世々の道にそむかず」と書いているのを見てもうかがわれる。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それが、白痴か、戦さ下手べたな男とでもいうなら、信玄の心労はなかったろう。およそ、戦場において、信玄をよく知る者は信玄の帷幕いばくにある者より謙信であった。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
およそ如才じょさいがなく、そのくせ、処世下手べたの無骨者とまっているから、生活には弱かった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「わっ、うわっッ。前に行く馬下手べたっ。避けろ。退かぬとあぶないぞ」
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)