上気じょうき)” の例文
旧字:上氣
ああ、三月みつきぶりで聞く先生の声です。小林君は上気じょうきした顔で名探偵をじっと見ながら、いっそう、そのそばへよりそいました。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
心持ち上気じょうきした顔に、喫驚した眼を見開いていた。その様子を、母の秋子は針仕事から眼を挙げて、静かに見やった。
白血球 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
欝金うこんつつみかかえたおこのは、それでもなにやらこころみだれたのであろう。上気じょうきしたかおをふせたまま、敷居際しきいぎわあたまげた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
やや上気じょうきした女の顔には、絶え間ない微笑が満ち渡った。女は敏子の心もちに、同情が出来ない訳ではない。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
人々の声は、カビ博士の名をよんで、その殊勲しゅくんをほめたたえる。博士は上気じょうきして、顔をまっ赤にしている。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
何だか効果がなさそうに思えたので、枕元に置いてあった脱脂綿を引きち切って、タップリとひたしながらがしていると、ポーッと上気じょうきしていたその顔が、いつとなく白くなったと思ううちに
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
こんがりげたような、肉欲的な腕と肩をあらわしたマタ・アリは、びのほかなにも知らない、上気じょうきした眼をあげて、相手の、連合マリン・サアヴィスのノルマン・レイ氏を見てにっこりした。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
あけみも初春の外光がいこうに、美しく上気じょうきして、さも楽しそうに見えた。女中のきよが夕食の用意をして、ふたりを待っていた。
月と手袋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
うすい少い髪の毛が、色艶を失ってぱさぱさで、そのくせ、皺よった厚ぼったい顔の皮膚が、ぼーっと上気じょうきしていた。
死の前後 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
すっかり巨体きょたいをあらわした地下戦車の中から、岡部伍長がまっ赤に上気じょうきした顔をあらわした。彼は報告のため、加瀬谷少佐の前にけつけ、ぴったりと挙手きょしゅの礼をし
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
隈取くまどりでもしたようにかわをたるませた春重はるしげの、上気じょうきしたほほのあたりに、はえが一ぴきぽつんととまって、初秋しょしゅうが、路地ろじかわらから、くすぐったいかおをのぞかせていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
いえ、まるっきりちがってますわ。何しろうす暗いのと、上気じょうきしていたのとで、はっきり見ることも出来ませんでしたが、わたしの見た女の方は束髪だった様に覚えています。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
行燈あんどんしたの、薬罐やかんうえいかぶさったそのかおは、益々ますます上気じょうきしてゆくばかりであった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
泰二君の上気じょうきした顔を、じっと見つめながら、みょうなことをいいました。
妖怪博士 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)