上座かみざ)” の例文
シャガレた声で上座かみざから、こう叫んだ向う鉢巻の禿頭はげあたまは、悠々と杯を置いて手をあげると、真っ先きに立った桃の刺青を制し止めた。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
すぐに上座かみざへしゃしゃくり出て、本当に学問のある人にまで、それを見せびらかそうとするから! その上にまだどうかすると
「東金はこの頃増長している。会へ行って一緒になると平気で俺の上座かみざに坐る。親父が家の千俵振舞いに来て音頭を取ったことを忘れているようだ」
村一番早慶戦 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
上座かみざに坐ると勿体もったいらしく神社の方を向いて柏手かしわでを打って黙拝をしてから、居合わせてる者らには半分も解らないような事をしたり顔にいい聞かした。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
出もしないせきばらいをして上座かみざにたちあがったのは、結城左京——あの、穴埋めの宰領をつとめた男。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
他ならぬそれは紋十郎で、彼は上座かみざ胡座あぐらを掻き、さっきからいかにも不機嫌そうに、ジロジロ座中をめ廻わしていたが、とうとうこの時怒鳴り出したのであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
食卓では、荒田老がすすめられるままに来賓席の上座かみざにつき、平木中佐がその横にならんだ。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
よそ者がもぐり込んで来て、宗旨もよくわからねえのに、こんな上座かみざに坐って大きなつらを
おごそかな渇き (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
蝋色鞘ろいろざや茶柄ちゃつかの刀を右の手に下げたまゝに、亭主に構わずずっと通り上座かみざに座す。
上座かみざしとねは、上下なしの意味か、親しみの心か、二つならべて敷いてある。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
公子、椅子の位置を卓子テエブルに正しく直して掛けて、姿見のかたわらにあり。向って右の上座かみざ。左のかたに赤き枝珊瑚えださんごの椅子、人なくしてただ据えらる。その椅子をななめさがりて、沖の僧都、この度は腰掛けてあり。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
といいながら、上座かみざれて行って、自分じぶんのそばへすわらせました。
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
二人は代わる代わる荒田老に上座かみざになおってもらうようにすすめた。しかし老は、黒眼鏡を真正面に向けたまま黙々としてすわっており、鈴田は眼をぎらつかせて手を横にふるだけだった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
われこそと、飛び出すのは皆、白骨の焚木たきぎじゃ、その白骨を山と積まねば、世はうごかぬ。やがてようやく、鍋が煮たち、膳拵ぜんごしらえが出来るころに、上座かみざにすわって、箸を取るのは、一体誰じゃ。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と奥の間へ案内をして上座かみざしょうじ、伴藏は慇懃いんぎんに両手をつかえ
上座かみざさ。恩人だもの」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
と、覚一は、離れ過ぎている上座かみざから、もどかしげに。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
旅人「これは/\旦那様、さア上座かみざへお坐りなせえ」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
上座かみざへ据え、慇懃いんぎんに両手を突き