上塗うわぬり)” の例文
神職 聞けば、聞けば聞くほど、おのれは、ここだくの邪淫じゃいんを侵す。言うまでもない、人の妾となって汚れた身を、鏝塗こてぬり上塗うわぬりに汚しおる。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
上塗うわぬりをせぬ土蔵どぞう腰部ようぶ幾個いくつあながあって、孔から一々縄が下って居る。其縄の一つが動く様なので、眼をとめて見ると、其縄は蛇だった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
長押なげしの下の壁の上塗うわぬりが以前から一ところ落ちていて、ちょうど俯伏うつぶせになった人間の顔の恰好をしていたのが、今日はいつもより大きく見える。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
従ってこの集の中には「鋸屑おがくず移徙わたましの夜の蚊遣かな 正秀」とか、「ふむ人もなきや階子はしごの夏の月 臥高」とか、「上塗うわぬりも乾や床の夏羽織 探芝」
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
きやがれ、殺すとき付いた返り血を誤魔化ごまかせねえから、多勢の前でお菊の死骸を抱き上げて、血染の上塗うわぬりをしたんだろう。そんな手を喰うものか
さて旧臘きゅうろう以来種々御意匠をわずらはし候赤坂豊狐祠畔あかさかほうこしはんの草庵やつと壁の上塗うわぬりも乾き昨日小半こはん新橋しんばし
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかしこれは上塗うわぬりの赤い朱の色とは関係がありません。血は黒くなるものであります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
かみのお慈悲で助けられ、生恥いきはじさらすことかとなるたけ人に姿を見られぬよう心して来たのに、未練にもお前達まで集まって此の文治に恥の上塗うわぬりをさせる了簡か、近寄ると生涯義絶するぞ
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そこへ春先の時候がよくなるに連れて、田舎の不景気にアブレた連中、又は前の年の東京の景気を聞き伝えた面々が、何という事なしに押上って来たので、いよいよ不景気の上塗うわぬりとなった。
要は円本出版屋が悪例の上塗うわぬりをしたものと見ればよい
鏡一台の前にはいずれも女が二、三人ずつ繍眼児押めじろおしに顔を突出つきだして、白粉おしろい上塗うわぬりをしたり髪の形を直したり、あるいは立って着物を着かえたり、大胡坐おおあぐら足袋たびをはきえたりしているのもある。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
逆怨さかうらみはそれこそ恥の上塗うわぬりだぞ。何を恥ずべきかがわかれば、君もほんとうの強い人間になれる。今のままだと、君ほど弱い人間は恐らくないだろう。私は、はっきりそれを言っておく。いいか。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
無理に拙者が若江を連れてまいりましたは、あなたに対しては何とも相済みません、若江はなくなられた親御の恩命にそむき、不孝の上の不孝の上塗うわぬりをせんければならず、拙者は何処どこへもどころはないが
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)