一廓ひとくるわ)” の例文
それらの創口きずぐちから出るうらみの声が大連中に響き渡るほどすさまじかったので、その以後はこの一廓ひとくるわを化物屋敷と呼ぶようになった。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と、この一廓ひとくるわの、徽章きしょうともいっつべく、峰のかざしにも似て、あたかも紅玉をちりばめて陽炎かげろうはくを置いたさまに真紅に咲静まったのは、一株の桃であった。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひとつでない、ふたつでもない。三頭みつ四頭よつ一齊いつせいてるのは、ちやう前途ゆくて濱際はまぎはに、また人家じんかが七八けん浴場よくぢやう荒物屋あらものやなど一廓ひとくるわになつてそのあたり。
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
一廓ひとくるわ蒼空あおぞらに、老人がいわゆる緑青色のとびの舞う聖心女学院、西暦を算して紀元幾千年めかに相当する時、その一部分が武蔵野の丘に開いた新開の町の一部分に接触するのは
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
猿芝居、大蛇、熊、盲目めくら墨塗すみぬり——(この土俵は星の下に暗かったが)——西洋手品など一廓ひとくるわに、蕺草どくだみの花を咲かせた——表通りへ目に立って、蜘蛛男くもおとこの見世物があった事を思出す。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三頭みつ四頭よつも一斉に吠え立てるのは、ちょう前途ゆくて浜際はまぎわに、また人家が七八軒、浴場、荒物屋あらものやなど一廓ひとくるわになってるそのあたり。彼処あすこ通抜とおりぬけねばならないと思うと、今度は寒気さむけがした。
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
戸外の広場の一廓ひとくるわ、総湯の前には、火の見の階子はしごが、高く初冬の空をいて、そこに、うら枯れつつも、大樹の柳の、しっとりとしずか枝垂しだれたのは、「火事なんかありません。」と言いそうである。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
湖をはるかに、一廓ひとくるわ、彩色した竜のうろこのごとき、湯宿々々の、壁、柱、いらかを中に隔てて、いまは鉄鎚てっついの音、謡の声も聞えないが、出崎のはたに、ぽッつりと、烏帽子えぼしの転がった形になって、あの船も
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)