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べつきよ
昨年の
初夏兩親の家から
別居して、赤
坂區新町に家を持ち、
馴染のその
球突塲が
遠くなるとともにまた
殆どやめたやうな
形になつた。
いつしか
恭助ぬしが
耳に
入れば、
安からぬ
事に
胸さわがれぬ、
家つきならずは
施すべき
道もあれども、
浮世の
聞え、これを
別居と
引離つこと、
如何にもしのびぬ
思ひあり
彼は
勘次から
幾らかづゝの
米や
麥を
分けさせて
別居した
當座は
自分の
手で
煮焚をした。それが
却て
氣藥でさうして
少しづゝは
彼の
舌に
佳味く
感ずる
程度の
物を
求めて
來ることが
出來た。
今はと
思ひ
斷ちて四
月のはじめつ
方、
浮世は
花に
春の
雨ふる
夜、
別居の
旨をいひ
渡しぬ。