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おきあが
本に
商賣人とて
憎くらしい
物と
次第におもふ
事の
多くなれば、いよ/\
寢かねて
奧方は
縮緬の
抱卷打はふりて
郡内の
蒲團の
上に
起上り
給ひぬ。
と
怒鳴つて、
笠を
拂つて、むつくりと
半身起上つて、
透かして
見ると、
何も
居らぬ。
其の
癖、
四邊にかくれるほどな、
葉の
伸びた
草の
影もない。
ト口へ出して考えて、フト
両足を
蹈延ばして
莞然笑い、
狼狽てて
起揚ッて
枕頭の
洋燈を吹消してしまい、枕に就いて二三度
臥反りを打ッたかと思うと間も無くスヤスヤと寐入ッた。
好し一つ頭を
捻向けて
四下の
光景を視てやろう。それには丁度
先刻しがた眼を覚して例の
小草を
倒に
這降る蟻を視た時、
起揚ろうとして
仰向に
倒けて、
伏臥にはならなかったから、勝手が
好い。