丁度ちやうど)” の例文
堀割ほりわり丁度ちやうど真昼まひる引汐ひきしほ真黒まつくろきたない泥土でいどそこを見せてゐる上に、四月のあたゝかい日光に照付てりつけられて、溝泥どぶどろ臭気しうきさかんに発散してる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
(今度も軽井沢かるゐざは寐冷ねびえを持ち越せるなり。)但し最も苦しかりしは丁度ちやうど支那へ渡らんとせる前、しもせきの宿屋に倒れし時ならん。
病牀雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それは丁度ちやうど日本にほん國號こくがう外人ぐわいじんなんなんかうとも、吾人ごじんかならつね日本にほん日本にほんかねばならぬのとおな理窟りくつである。(完)
誤まれる姓名の逆列 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
具清の家は大きくて、城のやうな家なのでしたが、丁度ちやうど夏で酒作りをする蔵男くらをとこの何百人は、播州ばんしうへ皆帰つて居た時だつたのださうです。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
『モ一度いちど合唱がつせうを!』とグリフォンがさけびました、海龜うみがめがそれを繰返くりかへさうとしたとき丁度ちやうど、『審問しんもんはじめ!』のさけごゑ遠方えんぱうきこえました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
丁度ちやうど日曜の勤行ごんぎやうに参り合せたのを初めに、今この筆を執る日まで丸八日やうか経つ間に倫敦ロンドン寺と博物館と名所とを一通り見物して仕舞しまつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
何故ならば、氏の心理解剖しんりかいばう何處どこまでも心理解剖で、人間の心持を丁度ちやうどするどぎん解剖刀かいばうたうで切開いて行くやうに、緻密ちみつゑがいて行かれます。
三作家に就ての感想 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
丁度ちやうどわたしみぎはに、朽木くちきのやうにつて、ぬましづんで、裂目さけめ燕子花かきつばたかげし、やぶれたそこ中空なかぞらくも往來ゆききする小舟こぶねかたちえました。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
丁度ちやうど、おとなりで美濃みのくにはうから木曽路きそぢはひらうとする旅人たびびとのためには、一番いちばん最初さいしよ入口いりぐちのステエシヨンにあたつてたのが馬籠驛まごめえきです。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
卯平うへい勘次かんじとのあひだ豫期よきしてごとひやゝがではあつたが、丁度ちやうど落付おちつかない藁屑わらくづあしいてはにはとり到頭たうとうつくるやうに
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
向島むかうじま武蔵屋むさしや奥座敷おくざしき閑静しづかからう、丁度ちやうど桜花さくらも散つてしまうた四ぐわつ廿一にちごろと決したが、其披露文そのちらし書方かきかたが誠に面白おもしろい。
落語の濫觴 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
けれど小供こどもこそまこと審判官しんぱんくわんで、小供こどもにはたゞ變物かはりもの一人ひとりとしかえない。嬲物なぶりものにしてなぐさむに丁度ちやうどをとことしかえない。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
丁度ちやうど一人が他の一人に眼を貸さうとする時、パーシユーズは突然其の眼を奪ふ。そして西の国なる三人の処女の在所を訊ねる。
毒と迷信 (新字旧仮名) / 小酒井不木(著)
丁度ちやうど今の梅子さんと同じ御年頃で、日曜日にはキツと御夫婦で教会へ行らつしやいましてネ、山木さんも熱心にお働きなすつたものですよ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
その小松こまつは、何處どこからかひかりけてるらしく、丁度ちやうどぎんモールでかざられたクリスマスツリーのやうに、枝々えだ/\光榮くわうえいにみちてぐるりにかゞやいてゐた。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
それは丁度ちやうど罪悪の暗い闇夜あんやに辛うじて仏の慈悲の光を保つてゐるやうに、又は恐ろしい心の所有者が闇の中におそをのゝいてゐるかのやうに……。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
佐野松との仲は、誰も知らないが、佐野松が母屋を嫌つて離屋に引つ越したのは、丁度ちやうど一年ほど前のことだから多分その頃ではないかと思ふ。
こゝに一だい事件じけん出來しゆつたいした、それはほかでもない、丁度ちやうどこのふね米國ベイこく拳鬪けんとう達人たつじんとかいふをとこ乘合のりあはせてつたが、このうわさみゝにして先生せんせい心安こゝろやすからず
もなく小六ころくかへつてて、醫者いしや丁度ちやうど徃診わうしん出掛でかけるところであつた、わけはなしたら、ではいまから一二けんつてすぐかうとこたへた、とげた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
丁度ちやうど、伊香保のおせいの家のやうなぐらぐらした家で、二階に加野は寝てゐると階下の子供が云ふので、ゆき子はかまはず二階へ上つて行つた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
貴樣きさま等は書物のむしに成つてはならぬぞ。春日かすがは至つてちよくな人で、從つて平生もげんな人である。貴樣等修業に丁度ちやうど宜しい。
遺教 (旧字旧仮名) / 西郷隆盛(著)
それにさつきも言つたやうに、今丁度ちやうど弟さんが入学試験を受けるので来ていらつしやるから、あそこの家だつて夜になつてもさう淋しくはないわ。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
すると其處そこ院長ゐんちやうは六號室がうしつるとき、にはからすぐ別室べつしつり、玄關げんくわん立留たちとゞまると、丁度ちやうど恁云かうい話聲はなしごゑきこえたので。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
召捕られてはかなはないから急に妻子を連れて、維幾と余り親しくは無い将門が丁度ちやうど隣国に居るをさいはひに、下総の豊田、即ち将門の拠処に逃げ込んだが
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
取つて親子が活計たつきとなすも今茲ことし丁度ちやうど三年越し他に樂みもあらざれど娘もいと孝行かうかうにして呉る故それのみが此上このうへもなき身のよろこび是も今茲ことしはモウ十七婿むこ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
丁度ちやうど金筋の何本はひつた帽子は大将で、何本のは中将であると今軍人の帽子で官の位がわかるのと同じことです。
拾うた冠 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
「あの筏が丁度ちやうどこの山のふもとまで流れて来る間におれはこゝから川端まで降りて行かれる。そして俺はあの筏に乗つてうちへ帰らう。さうぢや、それがい。」
山さち川さち (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
丁度ちやうど世間の人が私の父を知らぬやうに、世間の人は皆横井平四郎を知つてゐる。熊本の小楠せうなん先生を知つてゐる。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
いやうも永持ながもちはあるまいとおもはれる、ほとんど毎日まいにちぬといつとほ人間にんげんらしき色艷いろつやもなし、食事しよくじ丁度ちやうど一週間いつしうかんばかり一粒いちりふくちれることいに
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
つき此地球このちきう周圍まはりまはるものにて其實そのじつは二十七日と八ときにて一廻ひとまはりすれども、地球ちきうつきとの釣合つりあひにて丁度ちやうど一廻ひとまはりしてもとところかへるには二十九日と十三ときなり。
改暦弁 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
江戸えどからあたらしく町奉行まちぶぎやうとして來任らいにんしてから丁度ちやうど五ヶげつるもの、くもの、しやくさはることだらけのなかに、町醫まちい中田玄竹なかだげんちく水道すゐだうみづ産湯うぶゆ使つかはない人間にんげんとして
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
やうめん百万分ひやくまんぶんの一の大きさの鏡をつくると 丁度ちやうど半哩へいほどの鏡がいることになります
したがつてそれだけ丁度ちやうど日本にほん流通りうつうして通貨つうくわるのである。かねるとふことになると金利きんりあがり、さうして國民こくみん日常にちじやう所有しよいうして通貨つうくわるのであるから購賣力こうばいりよくる。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
なんでも耶路撒冷イエルサレムとほところだ、さうしてしゆきみは、われわれのごとくそばにお出遊いであそばすのだ。みんな耶路撒冷イエルサレムまでかれまい。耶路撒冷イエルサレムみんなのとこへるだらう。丁度ちやうど自分じぶんにもるやうに。
ホンノリ血の色がいて處女しよぢよ生氣せいき微動びどうしてゐるかと思はれる、また其の微動している生氣を柔にひツくるめて生々うい/\しくきよらかな肌の色==花で謂つたら、丁度ちやうど淡紅色の櫻草さくらさうの花に髣髴さもにてゐる
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
日向恋ひなたこひしく河岸かしへ出ますと丁度ちやうど其処そこ鰻捕うなぎとる舟が来てました。
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
見つけるにや丁度ちやうどいゝ都合でさ。
その晩は丁度ちやうど十五夜でした。
十五夜のお月様 (新字旧仮名) / 村山籌子(著)
丁度ちやうど、弾きすてた歌沢の
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
丁度ちやうどその場合と同じやうに、倉田氏と菊池氏との立ち場の相違も、やはり盛衰記の記事を変更した、その変更のし方に見えるかも知れぬ。
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
をりからきこえはじめたのはどツといふ山彦やまひこつたはるひゞき丁度ちやうどやまおくかぜ渦巻うづまいて其処そこから吹起ふきおこあながあいたやうにかんじられる。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
丁度ちやうど其時大島の重ねに同じ羽織を着て薄鼠の縮緬の絞りの兵児へこ帯をした、口許くちもとの締つた地蔵眉の色の白い男が駅夫えきふに青い切符を渡して居た。
御門主 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
いのがあつたら二つばかりかついツて、ねえさんが小遣こづけえれやしたから、何卒どうぞわつし丁度ちやうどさそうな世辞せじがあつたらうつておんなせえな。
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
帰途かへりに大陸ホテルの前を過ぎると丁度ちやうど今の季節に流行はやる大夜会の退散ひけらしく、盛装した貴婦人のむれ続続ぞくぞくと自動車や馬車に乗る所であつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
丁度ちやうど廻り合つたのだと思つて孝行しますから——私の様なアバずれ者でも何卒どうぞ、老女さん、行衛ゆくゑ知れずの娘が帰つて来たと思つて下ださいナ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
きりふかい六ぐわつよるだつた。丁度ちやうどはら出張演習しゆつちやうえんしふ途上とじやうのことで、ながい四れつ縱隊じうたいつくつた我我われわれのA歩兵ほへい聯隊れんたいはC街道かいだうきたきたへと行進かうしんしてゐた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
野球ボール其樣そん災難さいなんいから、毎日まいにち/\さかんなものだ、丁度ちやうど海岸かいがんいへから一ちやうほどはなれて、不思議ふしぎほど平坦たいらか芝原しばはらの「ゲラウンド」があるので
其方そつちを振向くと、丁度ちやうど、今二十はたち位になる女が、派手な着物を着た女が、その渡船小屋わたしごや雁木がんぎの少し手前のところから水へと飛込んだ処であつた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
すずめとうさんのおうちのぞきにました。丁度ちやうどうちではおちやをつくる最中さいちうでしたから、すずめがめづらしさうにのぞきにたのです。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
そりや下宿げしゆくからこんなところうつるのはかあないだらうよ。丁度ちやうど此方こつち迷惑めいわくかんずるとほり、むかふでも窮屈きゆうくつかんずるわけだから。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)