鼻梁びりょう)” の例文
血を吹きそうな広い額のまン中からぐいと隆起した鼻梁びりょうが、握るにあまるほど豊富な亜麻色の口ひげをさッと八文字にわけていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
彼れ白痘はくとう満顔、広額尖頤せんい双眉そうび上に釣り、両頬下にぐ、鼻梁びりょう隆起、口角こうかく緊束きんそく、細目深瞳しんとう、ただ眼晴烱々けいけい火把たいまつの如きを見るのみ。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
他猴と異なり果よりも葉をこのみ、牛羊同然複胃あり。鼻梁びりょうやや人に近く、諸猴にすぐれて相好そうごう美し(ウットの『博物画譜』一)。
そう思って見ると、眉間みけんの少し下、鼻梁びりょうの両側に静脈が青く透いていたりして、いかにも癇癖かんぺきの強そうな相をしている。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
鼻だって、兄さんのは骨ばって、そうして鼻梁びりょうにあざやかな段がついていて、オリジナリティがあるけれども、僕のは、ただ、こんもりと大きいだけだ。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
鼻梁びりょうは太く長いが、別に高くはない。高過ぎて下品になる鼻ではない。むしろなだらかで地道である。
九代目団十郎の首 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
骨太なわりには、痩肉そうにくの方である。あぎとのつよい線や、長すぎるほど長い眉毛だの、大きな鼻梁びりょうが、どこかのんびり間のびしているところなど、これは西の顔でもなし、京顔でもない。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たっぷりある、半明色の髪に少し白髪しらがが交って、波を打って、立派な額を囲んでいる。鼻は立派で、大きくて、しかも優しく、鼻梁びりょうが軽くわしくちばしのように中隆なかだかに曲っている。ひげは無い。
冬の王 (新字新仮名) / ハンス・ランド(著)
半兵衛の刀の切尖きっさきが、鼻梁びりょうのまん中をぴたりと押え、一呼吸ごとにぐいぐいと圧迫している。彼の口から(ときをおいて)瀕死ひんしの人のようなあらい息のもれるのが、出三郎に聞こえた。
艶書 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
第二はその方の天庭てんていに日蝕の如き蔭がある。これぞ盗心の蔵する証拠。生れながらの大盗心、人力をもって払い難い。第三はそなたの鼻梁びりょう黒子ほくろ財宝に心を迷わす印。第四は黒い唇じゃ。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
次には、その中間の鼻梁びりょうを、奥の方の粘膜が見える処までガリガリとち割りました。それから唇の両端を耳の近くまで切り裂いて、咽頭が露われるまでガックリと下顎を引卸しました。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しかし物も極度に達しますと偉観には相違ございませんが何となくおそろしくて近づき難いものであります。あの鼻梁びりょうなどは素晴しいには違いございませんが、少々峻嶮しゅんけん過ぎるかと思われます。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
のぞき鼻の鼻梁びりょうが、附け根から少し不自然に高くなっているのも、そう気になるほどではなく、ややもすると惑星のように輝く目に何か不安定な感じを与えもして、奈良ならで産まれたせいでもあるか
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
岡埜精神病院長は鼻梁びりょうを押えながら云った。
今や彼女の横顔は、その端厳な鼻梁びりょうの線を始めとして、包むところなく現れでつつ、私の顔とぴったり並んでいるのである。それでも女は、やっぱり私の方を振り向かない。
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)