黎明しののめ)” の例文
燈心に花が咲いて薄暗くなった、橙黄色だいだいいろの火が、黎明しののめの窓の明りと、等分に部屋を領している。夜具はもう夜具葛籠つづらにしまってある。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
まだ黎明しののめの頃ほひ、赤長靴の踵鉄そこがねが目につけばそこには必らずピドールカが情人のペトゥルーシャと甘いささやきを交はしてゐたわけぢや。
お町はハラ/\して其の儘寝る事もなりませずうちに、カア/\と黎明しののめつぐる烏と共に文治郎は早く起きて来まして
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
黎明しののめのように蒼じろく美しい彼女あれの顔も、あけぼのの水のような彼女あれの唇も見ることが出来よう。
ウスナの家 (新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
天業てんげふ恢弘くわいこう黎明しののめ、鎭みに鎭む底つ岩根いはねの上に宮柱みやばしらふとしき立てた橿原かしはら高御座たかみくらを、人皇第一代神倭磐余彦かむやまといはれひこ天皇すめらみことを、ああ、大和やまとは國のまほろば、とりよろふ青垣あをがきとびは舞ひ
新頌 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
下界を固く封鎖してしまった、この下に都府あり、簇々そうそうたる人家あり、男女あり、社会あり、好悪あり、号泣放笑ありといっても、これは黎明しののめが来るまでは存在しない世界である
奥常念岳の絶巓に立つ記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
黎明しののめの光が漸く障子にほのめいたばかりの頃、早く行くのを競つてゐる小供等——主に高等科の——が、戸外そとから声高に友達を呼起して行くのを、孝子は毎朝の様にまだ臥床とこの中で聞いたものだ。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
さうして日の光だ、雨の音だ、すずしい草花のかをり、木の葉のそよぎ、しめやかな霙、雪の羽ばたきだ。おお、さうして貧しい者には夕の赤い灯火であり、富みたる人には黎明しののめの冷たい微風となる。
愛の詩集:03 愛の詩集 (新字旧仮名) / 室生犀星(著)
眞闇まやみほしを、黎明しののめそらを、あからめ
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
やや時経れば、ほのぼのとして薄明る山際やまぎはの色、黎明しののめの薄樺いろに焼け明るその静けさに、日出づる前か、明鴉かをかをと二羽連れだちて羽風切る、その羽裏いよよ染みたり。
いつになく早いので、まだ誰も来てゐなかつた。さざなみ一つ立たぬ水槽の底には、消えかゝる星を四つ五つちりばめた黎明しののめの空が深く沈んでゐた。清洌な秋の暁の気が、いと冷かに襟元から総身に沁む。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
くだんの⦅赤い長上衣スヰートカ⦆の怖ろしい取沙汰も黎明しののめの光りと共に消え失せた。
やや時経れば、ほのぼのとして薄明うすあか山際やまぎはのいろ、黎明しののめの薄樺いろに焼けあかるその静けさに、日出づる前か、明鴉かをかをと二羽連れだちて羽風切る、その羽裏いよよ染みたり。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
翌朝はまだ暗いうちから取り騒いだが、大洋の黎明しののめは何ともいえずすがすがしかった。そのうちに珈琲コーヒーが来る。謄写版とうしゃばん刷の高麗丸新聞が配られる。この第二日もいい凪であった。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
さうして日の光だ、雨の音だ、すずしい草花のかをり、木の葉のそよぎ、しめやかな霙、雪の羽ばたきだ。おお、さうして貧しい者には夕の赤い灯火であり、富みたる人には黎明しののめの冷たい微風となる。
しきりなく自動車とほる夜のおもてどほになれば黎明しののめ近し
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
しきりなく自動車とほる夜のおもてどほになれば黎明しののめ近し
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
聞け大陸の黎明しののめに響くは何ぞ嚠喨と
新頌 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
俟つありき、つひに来るそが黎明しののめ
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
つありき、つひにむそが黎明しののめ
新頌 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)