-
トップ
>
-
麥飯
>
-
むぎめし
彼等は
味ふのではなくて
要するに
咽喉の
孔を
埋めるのである。
冷水を
注いで
其のぼろ/\な
麥飯を
掻き
込む
時彼等の
一人でも
咀嚼するものはない。
酌で差出す
盆も
手薄な
貧家の
容體其の内に九助は
草鞋の
紐を
解足を洗ひて上に
上り先お里へも
夫々の
挨拶して
久々の
積る話しをなす中に
頓てお里が
給仕にて
麥飯を
同者
實と思ひ私は
相摸領御殿場の者にて
小前の百姓條七と云者だが
上田が六石三斗中田が七枚半山が七ツ
有ば
親子三人
暮故十日や廿日は
麥飯さへ
承知なれば
貴殿一人位は苦にはせぬ其中に何
商ひでもするか但しは
又奉公にでも出るかよも死ぬには
増で有うから
己が
在所へ御座れと
深切に云ければ九郎兵衞夫は