えら)” の例文
この節、肉どころか、血どころか、贅沢ぜいたくな目玉などはついに賞翫しょうがんしたためしがない。鳳凰ほうおうずい麒麟きりんえらさえ、世にも稀な珍味と聞く。
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
眺めるだけにあき足りず、つついて見たり、ちょっとえらをあけて見たり、どうもそんなふうなのです。先ずはオセッカイと言うべきでしょう。
凡人凡語 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
お杉は立ち停ると、どちらへ出るのか迷い出した。彼女の頭の上には、えらのように下った洗濯物が、まだべとべと壁を濡らして並んでいた。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
湊は西洋の観賞魚の髑髏魚ゴーストフィッシュを買っていた。それは骨が寒天のような肉に透き通って、腸がえらの下に小さくこみ上っていた。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
樹々きぎこずえが水底のに見え、「水面」を仰ぐとねぐらへ帰る烏の群が魚に見え、ゼーロンにも私にもえらがあるらしかった。
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
ひれの動くのさええらのひらくのさえ見える。この水の上に、小さな虫が落ちると、今まで下の方ですましていた奴が、いきなり上を向いて突進してくる。
山と雪の日記 (新字新仮名) / 板倉勝宣(著)
失い、肺の代りにえらのようなものでも持ち運びしなくてはならないかも知れない。大阪は人間の住むべき所ではない。おたまじゃくしの住むべきところである
空中征服 (新字新仮名) / 賀川豊彦(著)
鯉はお朝の家のお勝手から持出したことだらう。小さくたつて鯉などをえらにブラさげたのが露見のもとさ。新之助は釣のことも魚のことも知らなかつたに違ひない
「これにて可し」とて、其の内最も大なるを一本買ひ取りしが、魚籃びくちいさくして、もとより入るべきやうも無かりければ、えら通して露はに之をげ、ただちに帰り途に就けり。
釣好隠居の懺悔 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
よく見るとえらの下に傷あとがあって出血しているのである。金網の破れから猫が手を入れて引っかけそこなったものと思われた。負傷した金魚はまもなく死んでしまった。
藤棚の陰から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
図395は真鯵まあじえら蓋と鰭とを示し、図396は別の魚の切りようで、串をさし込んで切口を引きはなす。長い条片に切ることもある。図397は魚の頭二つ、その他、並に魚のうきぶくろである。
思い出したように四五度慌しくえらを動かしては、またじっと口を閉じた。
幻の彼方 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
胸から肩へかけて動くのが見えると思はれる程呼吸が荒く、陸にあげられ少量の水の中に入れられた魚が、死に瀕してえらしきりに動かすにも似て居た。平三には生きた人間だとは思はれなかつた。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
それから少し離れて、ひとりの女の児が高く積まれた枯枝の幾束に倚りかかって、これもじっと鉈の光りを見つめていました。その女の児は藤蔓にえらを通した五、六ぴきの山女をさげていました。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わが心は魚ならねばえらたず
そぞろごと (旧字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
えらや、飛ぶはねたつ
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
三、影法師のえら
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
てのひらには、余るくらいなのが、しかもえらひれ、一面に泥まみれで、あの、菖蒲しょうぶの根が魚になったという話にそっくりです。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
興奮した小鼻の膨れ縮むのが、水を離した魚のえらのようにあえいでいましたが、だん/\に静まりました。そこに再び白々として取付きようもない葛岡の顔が残されました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「お梅さんが言ふんですよ。釣針に鯉が引つかゝつて居たが、もう鯉も死んでゐるのに、針は鯉が呑んだのでは無くて、外からえらに引つ掛けてあつた——と斯う言ふんです」
わが心はうをならねばえらを持たず
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
えらや、飛ぶはねたつ
新頌 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)