驀地まつしぐら)” の例文
支那の學者は畢竟本體の不明な經書の解釋に忙殺されて居るので、行先きを問ひ質さずに驀地まつしぐらに驅け出す車夫の態度と同樣である。
支那猥談 (旧字旧仮名) / 桑原隲蔵(著)
驀地まつしぐらに真に向つて突進して行つた運動、さういふ運動の気分が、日露戦役の終る時分から、凄じい勢でこの文壇に漲り渡つて来た。
明治文学の概観 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
やがて車は川崎を過ぎると、国道を驀地まつしぐらに突き進んで行つた。すつかり寝静まつた両側の家は次第にまばらになり、ただ街燈だけが果もなく続いてゐた。
道化芝居 (新字旧仮名) / 北条民雄(著)
斯くて十七名の選手は東海道筋を驀地まつしぐらに邁進して神奈川停車場を廻り、再び羽根田に引返したが佐々木依然として先登に立ち井手之に次ぎ蟹江第三着であつた。
オリムピヤ選手予選 (新字旧仮名) / 長瀬金平(著)
(1) 僕は或は谷崎氏の言ふやうに左顧右眄さこうべんしてゐるかも知れない。いや、恐らくはしてゐるであらう。僕は如何なる悪縁か、驀地まつしぐらに突進する勇気を欠いてゐる。
彼は腕のなかに、氣を失つた白衣の夫人のやうに、旗をかかへてゐた。さうして彼は馬を見つけると、それに跳びのつて、驀地まつしぐらに駈けらせた。それは叫びのやうだつた。
新三郎は、飛立つ思ひ、旅裝束のまゝ、駕籠を二ちやう呼んで、驀地まつしぐらにお茶の水へ——。
好摩かうまが原の夏草の中を、驀地まつしぐらに走つた二條の鐵軌レールは、車の軋つた痕に激しく日光を反射して、それに疲れた眼が、逈か彼方に快い蔭をつくつた、白樺の木立の中に、蕩々とろ/\と融けて行きさうだ。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
彼の調子はます/\とがつて来た。彼はもう驀地まつしぐらに自分の癇癪かんしやくに引き入れられて、胸の中で憤怒の情がぐん/\生長して行くのが気持がよかつた。彼は少しふるへを帯びた声を張り上げて怒鳴り出した。
An Incident (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
さすがに争ひかねてお峯の渋々たたずめるを、見も返らで夫は驀地まつしぐらかどを出でぬ。母は直道の勢におそれて先にも増してさぞやさいなまるるならんと想へば、とらの尾をもむらんやうに覚えつつ帰り来にけり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
障子を蹴放けはなして驀地まつしぐら躍込おどりこめば、人畜にんちく相戯あひたはむれてかたの如き不体裁。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
篠田と老人とを乗せたる一りやうは、驀地まつしぐらひとせぬ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
望みてこゝに驀地まつしぐら、彼は駈けんと幾度も
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
驀地まつしぐら馬乘り入れん夏の川
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
驀地まつしぐら頭上を天へ
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
怪鳥けてうも元よりそれにつれて、高く低く翔りながら、隙さへあれば驀地まつしぐらに眼を目がけて飛んで來ます。
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
真面目を守本尊にして、驀地まつしぐらに進む形はまだ対世間である。決して絶対ではない。真面目は笑や、戯談じやうだんや、滑稽や、さういふものゝ中からも捜し出して来られるやうでなければいけない。
解脱非解脱 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
併し事件はそれから急轉直下に展開して、恐ろしい破局カタストローフ驀地まつしぐらに陷込んで行きました。そのまた翌る日の朝、明神下の平次の家へ飛び込んで來た、八五郎のあわて加減といふものは——。
怪鳥けてうも元よりそれにつれて、高く低くかけりながら、隙さへあれば驀地まつしぐらに眼を目がけて飛んで来ます。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ガラツ八と伊三松は醉も興も醒めて、驀地まつしぐらに泉屋の店口に飛び付きます。
凄じい渡合の潮の中を船は驀地まつしぐらに流されて行つた。たうとう舟は沈没して了つた。Bが波の上に顔を出した時には、もうKの姿は見えなかつた。船頭の姿も見えなかつた。かれは一生懸命に泳いだ。
島からの帰途 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
平次は新しい光明を臨んで驀地まつしぐらに飛出しました。
汽車はさうした静けさの中を驀地まつしぐらに走つた。
アカシヤの花 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
順吉は驀地まつしぐらに走つた。
花束 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)