飲代のみしろ)” の例文
旧字:飮代
もろあじの開き、うるめいわしの目刺など持ちましては、飲代のみしろにいたしますが、その時はお前様、村のもとの庄屋様、代々長者の鶴谷つるや喜十郎様
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おべんちゃらと、おためごかしを混合ごっちゃにして、けだもの茶屋の飲代のみしろぐらいは、たしかにお松からせしめていることは疑うべくもありますまい。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
相当仕事はあるのだけれど、おやじがしようのないんだくれで、ついこの間も、上の娘をどこか遠くの宿場へ飲代のみしろに売りとばしてしまった。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
舁夫「御冗談仰しゃらずに、おねげえですから、ホンの飲代のみしろが有れば宜いんです、何うせけえるんですからお安くやりやしょう」
植えた木には、しきみや寒中から咲く赤椿など。百年以上の百日紅さるすべりがあったのは、村の飲代のみしろに植木屋に売られ、植木屋から粕谷の墓守に売られた。余は在来の雑木である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
多寡が近所の矢場や小料理屋をいやがらせて、幾らかの飲代のみしろをせびっているに過ぎない千次は、もとより度胸のある奴ではなかった。半七に嚇されて、彼は素直に白状した。
半七捕物帳:64 廻り灯籠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
自分の身に著けてゐた赤い長上衣スヰートカをば、せいぜい値段の三が一そこそこで、その当時ソロチンツイの定期市に酒場を出してゐた猶太人のとこへ飲代のみしろ抵当かたにおくやうな羽目になつただよ。
引いて、一生飲代のみしろにも困るとなると、馬場要の猩々斎だって面白くないだろう
銭形平次捕物控:050 碁敵 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
そのなかには、貸本の筆耕をして飲代のみしろにありついているのもありました。四書五経の講義ができるぐらいのものもありました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
どうです、おかみさん、そういった奴ですからね、どうせろくなこッちゃ来やしません。いづれ幾干いくら飲代のみしろでございましょう。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
馬子になってわずか飲代のみしろを取って歩いてるんだが、ほんの命をつないでるばかりで仕様がねえのさ、賭博打の仲間へ這入る事も出来ねえから、只もう馬と首引くびっぴきだ
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
むかしは遊芸の浚いなどを催していると、たちのよくない町内の若い者や小さい遊び人などが押掛けて来て、なんとか引っからんだことを云って幾らかの飲代のみしろをいたぶってゆくことが往々ありました。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
頂きます頂きます、飲代のみしろになら百両でも御辞退つかまつりまする儀ではござりませぬと、さあ飲んだ、飲んだ、昨夜ゆうべ一晩。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
無頼漢が飲代のみしろを借りに来たのを役者が貸さなかったから、それで暴れ込んだのだという説もあります。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
飲代のみしろでも稼ごうという代物であって、必ずしも斬ろうというのが目的ではない、とは感づきましたけれども、ともかく、これだけの仕掛をするほどの図々しい奴だから
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
床屋風情にゃあ過ぎたものを借りやあがった、ふすまの引手一個ひとつ引剥ひっぺがしても、いっかど飲代のみしろが出来るなんと思って、薄ら寒い時分です、深川のおやしきがあんなになりました、同一おなじ年の秋なんで。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大道へ武士の魂をほうり出して、飲代のみしろにでもありつこうとする代物しろもののことだから、恫喝どうかつは利いても、腕は知れたものだろうとの予想が外れて、悠然として此方こっちのかかるのを待っているてい
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
今日の飲代のみしろにさえありつけば、この上の欲はねえ。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二人の飲代のみしろは、お銀様から預かった、財布からの支出に相違ない——兵馬はそんなことは知らないが、あまりの暢気千万にあきれて、よし、それでは拙者が出向いて起して来るといって、旅装を整えて
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)