願望ねがい)” の例文
苦労性の気の弱い母もついに私の願望ねがいを容れて、下谷の清水町にわびしく住んでいる遠縁の伯母をたよりに上京することを許してくれた。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
この願望ねがいは、私以上の私の心から出る不可抗ふかこうな願いだ。せっかくだが私は大叔父の忠告に従うわけには行かない。で私は答えた。
自殺をする奴等は、きっとこんな風に坐って、最後の願望ねがいを書き遺すにちがいない。そのときの心持はどんなだろう。おれは判然はっきりとわかるような気がする。
ピストルの蠱惑 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
あるものは願望ねがいはあれど希望のぞみなき溜息ためいきをもって、揺動ゆれうごく無数の藻草もぐさのようにゆらゆらとたゆとうておった。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
御迷惑かけてはすみませぬ故どうか御帰りなされて下さりませ、エヽ千日も万日も止めたき願望ねがいありながら、とあとの一句は口にれず、薄紅うすくれないとなって顔にあらわるゝ可愛かわゆ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
わたくし単身たんしん瀑壺たきつぼそばとうってうえのおみやもうで、はは願望ねがいをかなえさせてくださるようおたのみしました。
あっちの希望のぞみ、こっちの願望ねがい、それらを万遍なく斟酌しんしゃくしてともかくも事を行ったとする。するというところの識者という奴が、ケチつけてくさしおる。……わしにはお前がうらやましいよ。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
将来は如何いかにしてもこの恋を遂げたいとの切なる願望ねがい
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「さあ、これでお前達まへたち願望ねがいはかなつた」
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
一体、今夜のように、人がいてくれなければいいという願望ねがいと、そうした静寂の不気味さを同時に感じたということは、彼としてはこれまでにかつてない経験であった。
空家 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
そのおかげで、とうとう日頃ひごろ願望ねがいかなときがまいりました。
それで、何等かの方法によって自分の罪過を償いたいということが、私の唯一の願望ねがいになりました。
自責 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)