頑健がんけん)” の例文
夫のように頑健がんけんで抵抗力の強い人は自分達のような華奢きゃしゃで病気に罹りやすい者の気持が分らないのだと云う考があり、貞之助の方には
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
父や祖父から頑健がんけんな体格を受け継いでいた。一家の者は弱虫でなかった。病気であろうとあるまいと、決して愚痴を言わなかった。
ただ、すこし違うのは、何か悪い、陰険な感じをうける顔ではなくて、にやけた、頑健がんけんそうな頬と、にこにこした人なつっこい笑いだった。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
亭主のテナルディエの方は、背の低い、やせた、色の青い、角張った、骨張った、微弱な、見たところ病気らしいが実はすこぶる頑健がんけんな男であった。
弓のように腰は曲がっているが、まだ頑健がんけんさを、肩の骨ぐみに失わない老武士が、紙緒かみお草履ぞうりを静かに運んで来て
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二人とも日常ひごろ非常に壮健じょうぶなので——わずらっても須磨子が頑健がんけんだと、驚いているといっていたという、看病人の抱月氏の方がはかばかしくないようだった。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
馬籠まごめ本陣の吉左衛門なぞがもはやこの世にいないばかりでなく、同時代の旧友であれほどの頑健がんけんを誇っていた金兵衛まで七十四歳でき人の数に入ったが
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ドーアはいして這入って来るや否や、どうだ相変らず頑健がんけんかねと聞かざるを得なかったくらいである。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
粗食そしょくがいいです。私なぞはぜいたくをしませんから、この年になってもこのとおり頑健がんけんです」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「僕は狐雲野鶴こうんやかくだ、どこときまった所はないが、君と別れた後も幸に頑健がんけんだったよ。」
成仙 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
歯は十枚ばかりしか残っていなかったが、それで強くみしめることができた。食卓についた様子を見ると心強かった。頑健がんけんな食欲をもっていた。
その明らかな目つき、しっかりした語調、両肩の頑健がんけんな動き、それらのうちには死と不調和なものがあった。
実はさしもに頑健がんけんを誇った此の老人も、一二年此のかたようやく体力が衰え始め、何よりも性生活の上に争われない證拠が見え出して来たので、それを自覚する老人は
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
熱しるに理性をともなわない血液と頑健がんけんな肉体と——きょうにちかい情涙の持ち主ときている。
クリストフは、悲しみの中や不正や憎悪の中にあってさえ楽天的になりがちな、あふれるほどの活力と心身の頑健がんけんさとを、多少オリヴィエのうちに注ぎ込んだ。
悪を消化しつくしたので、更にひどい悪を渇望していた。浮浪少年から無頼漢となり、無頼漢から強盗と変じたのである。やさしく、女らしく、品があり、頑健がんけんで、しなやかで、かつ獰猛どうもうだった。
昨日その医院へ入院して手術をした、幸い経過良好で、当人は至極元気にしており、僕に構わんと東京へ行っていらっしゃいと云ってくれるので、折角支度したことでもあるし、平素から頑健がんけん
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
政治家や耽美たんび家や社会学者がそれにぎ木されることは、おかしな変形だと思っていた。それでも彼は、この頑健がんけんな人が他人に地位を譲ったのが理解できなかった。
父や祖先の足が、まさに崩壊せんとしてるこの息子むすこの身体をささえていた。頑健がんけんな父祖の支力が、あたかも馬が騎士の死体を運ぶように、くじけたこの魂を支持していた。
他の熟練家らよりも彼女のまさってる点は、その肉体上および精神上の頑健がんけんな平衡であった。私的熱情のない彼女の生の豊満のうちに、他人の熱情は花を咲かすべき肥沃ひよくな土地を見出していた。
そして発見の歩を進めるに従って、まだ不定不均衡ではあるがしかし頑健がんけん果敢な一つの力を、クリストフのうちに見出した。彼女は力の稀有けうなことをだれよりもよく知っていたから、それを喜んだ。
それから身体の頑健がんけんな骨組み、などを彼は見てとった。