青蛙あおがえる)” の例文
今夜、フランス製、百にちかい青蛙あおがえるあそんでいる模様の、紅とみどりの絹笠かぶせた電気スタンドを、十二円すこしで買いました。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ゆうべの夢見ゆめみわすれられぬであろう。葉隠はがくれにちょいとのぞいた青蛙あおがえるは、いまにもちかかった三角頭かくとうに、陽射ひざしをまばゆくけていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
暑い晩に、泡鳴は半裸体で原稿を書き、彼女はかたわらでルビを振っている。と、青蛙あおがえるが飛び込んで来た。泡鳴は団扇うちわで追いまわし、清子も手伝った。
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
金庫の錠前じょうまえがギイギイって音を立てるのが聞こえるんだ。夕方だろう、それが……。まるで青蛙あおがえるが鳴くみたいさ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
東武談叢とうぶだんそう』その他の聞書ききがきに見えているのは、慶長十四年の四月四日、駿府城内の御殿の庭に、弊衣へいいを着し乱髪にして青蛙あおがえるを食う男、何方いずかたよりともなく現れ来る。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
庭の柿の幹に青蛙あおがえる啼声なきごえがきこえて、しろがねのような大粒の雨がにわかに青々とした若葉に降りそそいだりした。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ふくろう木槵樹もくろじゅの梢を降りて来た。そして、嫁菜よめなを踏みながらむらが薏苡くさだまの下をくぐって青蛙あおがえるに飛びついた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「ああ、青蛙あおがえるだね。何で這入はいって来たのかねえ——こら! 青蛙、なにしに来た?」
(新字新仮名) / 林芙美子(著)
雨彦 ……僕、……青蛙あおがえるの皮をむいて、赤蛙だよって云って、みんなにみせた。……
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
青蛙あおがえるを見ると口がきけなくなるという蛙の良導体みてえな、豪傑があったではないか! と、理屈の一つもヒネクリたくなるのであるが、何と詭弁きべんろうしても、結局は臆病なるが故の
雷嫌いの話 (新字新仮名) / 橘外男(著)
この夕立の大合奏サンフォニーとどろき渡るいかずち大太鼓おおだいこに、強く高まるクレッサンドの調子すさまじく、やがて優しい青蛙あおがえるの笛のモデラトにそのきたる時と同じよう忽然として掻消かきけすようにんでしまいます。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
一匹の青蛙あおがえるがいつもそこにいた。電燈の真下の電柱にいつもぴったりと身をつけているのである。しばらく見ていると、その青蛙はきまったように後足を変なふうに曲げて、背中をねをした。
闇の絵巻 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
広縁のゆっくり取ってある、ひさしの深い書院のなかで、たまに物を書きなどしていると、青蛙あおがえるが鳴き立って、窓先にある柿や海棠林檎かいどうりんごの若葉に雨がしとしとそそいで来る。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
車馬のとどろきはめったに聞こえず、人が尋ねてくるではなし、昼間家の中を青蛙あおがえるが飛んでいるし、道ばたの小家にすだれを釣って、朝、夜明から戸をあけて蚊帳かやは釣りっぱなしで寝ていると