びな)” の例文
ただあのちんひきというのだけは形もしなもなくもがな。紙雛かみひいなしまの雛、豆雛まめひいな、いちもんびなと数うるさえ、しおらしく可懐なつかしい。
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「へツ、大きな聲ぢや言へませんが、お二人は、繁々しげ/\逢引をして居るとしたらどんなもので——坊主と尼の夫婦びななんぞ御時世ぢやありませんよ」
あのまがいびなの着付けとおんなじ金襴を百体分ばかり、人形師の野郎が自身でもって買い出しに来たというんですよ。
卓子テーブルの向うのほの暗い右側には、くろずんだ古代びな……又、左側には近代式の綺羅きらびやかな現代式のお姫様が、それぞれに赤い段々を作って飾り付けてある。
白菊 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
五月びなの行列 というような具合に私共は見物致しました。その調練もごく儀式的で面白い。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「さむらいびなみたいに、いやに澄ましていやがる」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
庫裡の奧には、住持の春嚴和尚をしやうと小坊主の岩良が、鼠に引き殘された、坊主びなのやうに淋しく控へてをりました。六十過ぎの痩せた老僧と、十四五の小坊主です。
銭形平次捕物控:239 群盗 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
いかでむとてもやらず、うつくしきふところより、かしこくも見參みまゐらすれば、うへ女夫めをとびな微笑ほゝゑたまへる。それもゆめか、胡蝶こてふつばさかいにして、もゝ花菜はなな乘合のりあひぶね
月令十二態 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ことばゆかしくしょうじながら、いっときも待ちきれないというように、そこの床の間に飾ってある桃の節句の祝いびなを指さしたので、静かに見ながめると、なにさまちと不審なのです。