にえ)” の例文
あざのようにあった、うすいさび斑紋はんもんも消えているし、血あぶらにかくれていたにえも、朧夜おぼろよの空のように、ぼうっと美しく現れていた。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いいやいや。にえみだれて刃みだれざるは上作なりと申す。およそ直刃すぐはに足なく、位よきは包永かねなが新藤五しんとうご千手院せんじゅいん粟田口あわたぐち——。」
寛永相合傘 (新字新仮名) / 林不忘(著)
盲目めくらであった竜之助には、その刀の肌を見ることができません。にえも匂いもそれと見て取ることのできるはずがございません。けれども
「鍛えは柾目、忠の先細く、鋩子ぼうし詰まってにえおだやか、少し尖った乱れの先、切れそうだな、切れてくれなくては困る」
首頂戴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
……薫るのなんぞ何のその、酒のひやの気を浴びて、正宗を、びんの口の切味きれあじや、にえも匂も金色こんじきに、梅を、おぼろたたえつつ、ぐいと飲み、ぐいとあおった——立続けた。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
取りあげてにえ、におい、こしらえのぐあいを、巨細こさいに見改めていましたが、その目が鍔元つばもとへ注がれると同時に、ふふん——という軽い微笑が名人の口にほころびました。
大湾おおのたれににえすぐれて多く匂いの深いところ、則重の名作と誰も言ってみたいが、それよりはずんと高尚で且つ古いものじゃ
手——盃に觸れる時、心に、日本刀のあの冴えたる斬れ味やにえやみだれを思うて見る。色、香、味。さながら銘刀を飮むやうに美味くなければならない。
折々の記 (旧字旧仮名) / 吉川英治(著)
大和やまとに住していた天国の作の、二尺三寸の刀身の、何んと、部屋の暗さの中に、煌々こうこうたる光を放していることか! その刀身の姿は細く、肌は板目で、女性を連想おもわせるほどに優美であり、にえ多く
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
血脂ちあぶらは古くにえの色はなま新しい、そぼろ助広すけひろの一刀をギラリと抜いてさやを縁側へ残し、右手めてしずくの垂れそうなのを引っさげて、しずしずとしいの下へ歩みだした。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あ、ではみだれになっているのだろう。それから、にえにおい、それは、あなたにはわかるまいが……銘があるとの話、その銘は何という名か覚えていますか」
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
行燈あんどんの光を流したやいばにえさきの来るより早く弥助の眼を射て、「おのれ!」パッと片足に蹴返した。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「見事な大湾おおのたれ、にえすぐれて匂いが深いこと、見ているうちになんとも言われぬ奥床しさ」
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
抜いてあるまま、その鞘とつかとを、お綱の手へ返すと、お綱もそれをうけてややしばらく、深味のあるにえの色に、ジッと心を吸いこませたが、やがてわれを忘れかけたように
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「二尺四寸、大湾おおのたれでにえと匂いの奥床おくゆかしいこと、とうてい言語には述べ尽されぬ」
しかも刃もなく、にえもなく光もない竹杖ちくじょうが、ひと度ひげの重左に
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)