遠国えんごく)” の例文
旧字:遠國
もし駕籠かごかきの悪者に出逢ったら、庚申塚こうしんづかやぶかげに思うさま弄ばれた揚句、生命いのちあらばまた遠国えんごくへ売り飛ばされるにきまっている。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
今お役済で袴は着けて居りますが座蒲団の上にくつろいで居て、其の頃の遠国えんごくの奉行は、黒縮緬に葵の紋の羽織を上から二枚ずつ下すったもので
「永年遠国えんごく罷在候夫まかりありそろおっとため、貞節を尽候趣聞召つくしそろおもむききこしめされ、厚き思召おぼしめしもっ褒美ほうびとして銀十枚下し置かる」と云う口上であった。
じいさんばあさん (新字新仮名) / 森鴎外(著)
遠国えんごくから態〻わざわざ参詣に来るのに偶然時間が余ったから入って見るとは、心掛の悪い連中ばかり能く揃ったものだ。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
学問をした結果兄は今遠国えんごくにいた。教育を受けた因果で、わたくしはまた東京に住む覚悟を固くした。こういう子を育てた父の愚痴ぐちはもとより不合理ではなかった。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それからは文福ぶんぶくちゃがまの評判ひょうばんは、方々ほうぼうにひろがって、近所きんじょの人はいうまでもなく、遠国えんごくからもわざわざわらじがけでる人で毎日まいにち毎晩まいばんたいへんな大入おおいりでしたから
文福茶がま (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
さて中津から箇様かよう申して参りました、母がにわかに病気になりました、平生へいぜい至極しごく丈夫なほうでしたが、実に分らぬものです、今頃は如何どう云う容体ようだいでしょうか、遠国えんごくに居て気になりますなんて
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
みょうなもので、かえって遠国えんごくしゅうの、参詣が多うございます。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
また老いさらぼいたる本人のためにも、長途の旅をして知人しるひとのない遠国えんごくに往くのはつらいのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
飯「なんだナ、遠国えんごくへでもくような事を云って、そんな事は云わんでもいゝわ」
十年の後われ遠国えんごくより帰来してたまたま知人をここに訪ふや当時の部屋々々空しく存して当時の人なく当時の妙技当時の芸風また地を払つてなし正に国亡びて山河さんがとこしえにあるの嘆あらしめき。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
いはんやその誤を正さん親切気しんせつぎにおいてをや。時折遠国えんごくの見知らぬ人よりこまごまと我がつたなき著作の面白き節々ふしぶし書きこさるるに逢ひてもこれまたそのままに打過して厚きこころざしを無にすること度々たびたびなり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)