路々みちみち)” の例文
この間三千代に逢って以後、味わう事を知った心の平和を、父や嫂の態度で幾分か破壊されたと云う心持が路々みちみち募った。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
路々みちみち弟子たちに教えを説かれ、かつ「人の子は人々の手に渡され、人々これを殺し、殺されて、三日の後甦るべし」
老人の智恵という話が多くは父親であるに反して、このほうは母親だったというのがふつうである。その母が子の背に負われていて、路々みちみち左右の木の小枝を折ってゆく。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
霊廟れいびょうの土のおこりを落し、秘符ひふの威徳の鬼を追ふやう、立処たちどころに坊主の虫歯をいやしたはることながら、路々みちみち悪臭わるぐささの消えないばかりか、口中こうちゅうの臭気は、次第に持つ手をつたわつて
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
春彦 大仁おおひとの町からもど路々みちみちに、物の具したる兵者つわものが、ここに五人かしこに十人たむろして、出入りのものを一々詮議するは、合点がてんがゆかぬと思うたが、さては鎌倉の下知によって
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
路々みちみち、この上は娘に事情を云って新しい借金をわせるか、さもなければ首をくくろうかといずれにしても悲壮なはらを決めかけていたところへ、私が背後うしろから声をかけたのだった。
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そうしてそのあくる日からまた普通の行商ぎょうしょうの態度に返って、うんうん汗を流しながら歩き出したのです。しかし私は路々みちみちその晩の事をひょいひょいと思い出しました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
路々みちみち拝んだ仏神の御名みなを忘れようとした処へ——花の梢が、低く靉靆たなびく……藁屋はずれに黒髪が見え、すらりと肩が浮いて、俯向うつむいて出たその娘が、桃に立ちざまに、目を涼しく
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
遠野の町の後なる物見山の中腹にある沼に行きて、手をたたけば宛名あてなの人いでべしとなり。この人け合いはしたれども路々みちみち心に掛りてとつおいつせしに、一人の六部ろくぶに行きえり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
霊廟れいびょうの土のおこりを落し、秘符の威徳の鬼を追うよう、たちどころに坊主の虫歯をいやしたはさることながら、路々みちみち悪臭わるぐささの消えないばかりか、口中の臭気は、次第に持つ手をつたわって
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
路々みちみちかじりながら出かけるのが、多くの農村のふつうの例であった。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
路々みちみち唐黍とうきび畑も、おいらんそうも、そよりともしないで、ただねばりつくほどの暑さではありましたが、煙草たばこを買えば(私が。)(あれさ、こまかいのが私の方に。)と女同士……東京子とうきょうっこは小遣を使います。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)