赤襷あかだすき)” の例文
しげる立ち枯れのかやをごそつかせたうしろ姿のにつくは、目暗縞めくらじまの黒きが中をはすに抜けた赤襷あかだすきである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ねぎの白根の冴え揃った朝の雨。ミルク色に立ちこめた雨の中から、組み合った糸杉の群りすすんで来るような朝の雨だ。峠を越えて魚売りの娘の降りて来る赤襷あかだすき
一つどぎもをぬいてやれと、それまで、お茶坊主役をつとめていた幇間たいこもちの連中が、金屏風きんびょうぶをとらせて、もう秋ではあったが、揃い浴衣ゆかた赤襷あかだすきで、かっぽれを踊って出た。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
オモヨさんも高島田にうて、草色の振袖に赤襷あかだすきがけで働いておりましたが、何に致せ容色きりょうはあの通り、御先祖の六美むつみ様の画像も及ばぬという、もっぱらの評判で御座いますし
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
男は股引ももひきに腹かけ一つ、くろ鉢巻はちまき経木きょうぎ真田さなだの帽子を阿弥陀あみだにかぶって、赤銅色しゃくどういろたくましい腕によりをかけ、菅笠すげがさ若くは手拭で姉様冠あねさまかぶりの若い女は赤襷あかだすき手甲てっこうがけ、腕で額の汗を拭き/\
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
一人淋しき老爺おやぢ三味線ざみせんかかへて行くもあり、六つ五つなる女の子に赤襷あかだすきさせて、あれは紀の国おどらするも見ゆ、お顧客とくい廓内かくないに居つづけ客のなぐさみ、女郎の憂さ晴らし
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
赤襷あかだすきの山川を営門に送りこんでから、今日というその日までのあいだに、戦中戦後を含め、六年という非情の長い時の流れが介在するのだから、いつぞやという挨拶は、なんとしてもへんだった。
蝶の絵 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
赤襷あかだすきを掛けた人に会うとするでしょう。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
掃初はきぞめ白手拭しろてぬぐい赤襷あかだすき
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)