言分いひぶん)” の例文
日本人は地味でぽんほか言分いひぶんはないが、たつた一つ辞世だけは贅沢すぎる。死際にはお喋舌しやべりは要らぬ事だ。狼のやうに黙つて死にたい。
「僕も実は御礼にやうなものだが、本当の御礼には、いづれ当人がるだらうから」と丸で三千代と自分を別物べつものにした言分いひぶんであつた。代助はたゞ
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ル・バルヂイ氏にう云ふ言分いひぶんがあるか知らないが、新聞の上の批評では裁判の予測が衆口しゆうこう一斉に不利な様だ。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
昨晩跡部からの書状には、たしかな与力共の言分いひぶんによれば、さ程の事でないかも知れぬから、かねて打ち合せたやうに捕方とりかたを出すことは見合みあはせてくれと云つてあつた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
使者つかひが帰つて、その通り話すと、車の庄の長者は『白鳥を射殺しておきながら、けしからん言分いひぶんぢや』と怒つて了つたのぢや。それがもとで、たうとういくさになつたのぢや。いいか。
黄金の甕 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
胸に定めまづまちたまへ長庵殿最早もはや委細は分つたり然ば外には言分いひぶんなし勘辨なして下されと千太郎はくやしくも兩手をついわびければ長庵呵々かゝ冷笑あざわらひ夫みられよ最初さいしよより某しが言通り其方がかたりを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
此の意味で周三は、一家内から相應さうおう手厚てあつ保護ほごを受けることになツた。繪を研究する爲には、てい内に、立派な獨立どくりつの畫室もてゝ貰ツた。そして他から見ると、言分いひぶんの無い幸な若様わかさまになツてゐた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)