見幕けんまく)” の例文
では、女性の方に対しては、どういう解釈をもったかというに、世人は侮蔑と反感を持って、つばも吐きかけかねまじき見幕けんまくであった。
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
僕はたびたび見たが、ひなやしなっている雌鶏めんどりかたわらに、犬猫いぬねこがゆくと、その時の見幕けんまく、全身の筋肉にめる力はほとんど羽衣はごろもてっして現れる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「もう來なくても宜いと仰つしやるんです。それに宵過ぎには全く何があるか判りやしません。二三日前からお近さんの見幕けんまくが大變でしたから」
勘作は、その時、お鶴の方を抱き起こして塵を払ってやっていたが、お浜の見幕けんまくを見ると、そ知らぬ顔をして、さっさと校番室の方に歩き出した。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
私がピカ一を突きとばす、人見小六の見幕けんまくが物凄い、彼は昔は左翼の闘士で喧嘩名人の噂の高い男だ。
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
そう思った時、彼の女はあたか呪文じゅもんとなえ終って、素晴らしい見幕けんまくでぴしッと右手の親指を鳴らした。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼は警察事務にはもう飽き飽きしたといっていましたが、談一度ひとたびルパンに及ぶと、額に癇癪筋かんしゃくすじを出して、息を引取るまで、あいつの事は忘れないだろうと、非常な見幕けんまくでした。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
この漁猟期には、スコットランドの海岸地方では、労働賃金が高率を唱えるを例とする。しかし、かれらはその不満をただ不機嫌な容貌ようぼうと、恐ろしい見幕けんまくとで表わすばかりである。
一散いっさんに飛上ってくだんの盗人を噛倒かみたおし、尚お驚いて逃出そうとする一賊のうしろから両手をのばしてかじり付き、あわや喰殺し兼まじき見幕けんまく、山賊も九死一生きゅうしいっしょうの場合ですから、持合しましたお町の短刀
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
文章を髭から捻り出して御覧に入れますと云う見幕けんまくで猛烈に捻ってはねじ上げ、ねじ下ろしているところへ、茶の間から妻君さいくんが出て来てぴたりと主人の鼻の先へわる。「あなたちょっと」と呼ぶ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
恐ろしい見幕けんまく怒鳴どなり声をあげた。
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と、巻舌で息子をののしった。その見幕けんまくに、泣き出すかと思った子は、ちょこちょこといって箏の前へ坐ったのだった。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
痴川はみるみる崩れるような、くしゃくしゃな泣き顔をしたが、急に物凄い見幕けんまくで怒りだして
小さな部屋 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
死んでしまうという見幕けんまくだから、結局無理を押し通して、結婚式を上げる運びとなった。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
次郎の見幕けんまくに圧倒されて、馬田一派はおたがいに顔を見あうことさえ出来なかった。
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
二郎が恐ろしい見幕けんまくでつめ寄った。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)