西国さいこく)” の例文
旧字:西國
わたしはつい四五日まえ西国さいこく海辺うみべに上陸した、希臘ギリシャの船乗りにいました。その男は神ではありません。ただの人間に過ぎないのです。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
其の昔罪人は日本橋を中央として、東国とうごくの者ならば小塚原こづかっぱらへ、西国さいこくの者ならば鈴ヶ森でお仕置になりますのが例でございます。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「何がまあだ。そこでお前に訊きてえのはほかじゃねえ。あのお武士衆さむれえしゅは一体どこのお屋敷だえ。西国さいこくの衆らしいね」
半七捕物帳:04 湯屋の二階 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「あるとすれば——どこの大名であろう? 無論西国さいこく、一体西国大名は、おりさえあれば風雲に動きやすい。島津か、毛利か。いやことによるともっと意外な……」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
道中自慢であつた父も、その時は既に六十四五歳になつて居り、四十歳ごろから腰がまがつて、西国さいこくの旅に出るあたりは板に紙を張りそれを腹に当てて歩いてゐた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
真鍮は真鍮と悟ったとき、われらは制服を捨てて赤裸まるはだかのまま世の中へ飛び出した。子規は血をいて新聞屋となる、余は尻を端折はしょって西国さいこく出奔しゅっぽんする。御互の世は御互に物騒ぶっそうになった。
京に着ける夕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
愚僧儀はもと西国さいこく丸円藩まるまるはん御家臣ごかしん深沢重右衛門ふかざわじゅうえもんもうし候者の次男にて有之これあり候。
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
西国さいこくのものらしいが、おれらねえ。」と、父親ちちおやこたえました。
けしの圃 (新字新仮名) / 小川未明(著)
近くは上総かずさ下総しもうさ、遠い処は九州西国さいこくあたりから、聞伝ききつたえて巡礼なさるのがありますところ、このかたたちが、当地へござって、この近辺で聞かれますると、つい知らぬものが多くて、大きに迷うなぞと言う
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お登和嬢は西国さいこくの人いまだ蕎麦の事にくわしからず「そうでございますねー、お蕎麦の方はよく存じませんが別に新蕎麦が害になると聞きません。よく信州の新蕎麦と申す位ですから新蕎麦は結構なものでございましょう」
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
僕はこの事実を発見した時、西国さいこくの河童は緑色であり、東北とうほくの河童は赤いという民俗学上の記録を思い出しました。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
屋敷の名は明らかに云うわけには行かないが、自分は西国さいこくの或る藩中に勤めている者で、あの生成の仮面は主人の屋敷で当夏虫干むしぼしのみぎりに紛失したものである。
半七捕物帳:42 仮面 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
こんどこそ弦之丞めを刺止しとめてしまわねば、絶大な恥辱じゃ。近く同志の公卿くげや、西国さいこくからも諸大名の密使が、ある打合せのために、徳島城へ集まろうとしている。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは大正四年に西国さいこくたびした時の父の日記である。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
「このふたりは西国さいこくの或る藩中の父子おやこ連れだそうです」と、半七老人はここで註を入れた。
半七捕物帳:29 熊の死骸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
何、西国さいこくの大名の子たちが、西洋から持って帰ったと云う、横文字よこもじの本にあったのです。——それも今の話ですが、たといこの造り変える力が、我々だけに限らないでも、やはり油断はなりませんよ。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
一方の佐藤は長崎出役を命ぜられて西国さいこくへ旅立つことになったのとで、お近は遂に金田の隠居を殺害してその手箱から盗み出した三十両の金を路用に、佐藤のあとを追って行った。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そうして、おれは当時西国さいこくの博多に店を持って、唐人とうじんあきないを手広くしている。一年には何千両というもうけがある。それでお前を迎いに来た。大工の丁稚奉公などしていても多寡が知れている。
心中浪華の春雨 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
西国さいこく生まれだそうで、年は明けて十九でございます。
半七捕物帳:30 あま酒売 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)