とこ)” の例文
僕が荷物を持って帰ったのを見て、妻はとこの中からしきりに吉弥の様子を聴きたがったが、僕はこれを説明するのも不愉快であった。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
黒斜子くろなゝこ五所紋いつところもんの上へ行儀霰ぎょうぎあられ上下かみしもを着け、病耄やみほうけて居る伊之助を、とこへ寄掛りをこしらえて、それなりズル/\座敷へ曳摺ひきずり出しますと
その寝るには表の往来を枕にして、二つ並べてべたとこ枕辺まくらもとの方にはランプを置いて、愈々いよいよ睡る時はそのランプの火を吹き消してくらくする。
白い光と上野の鐘 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
その日の朝から月のものが来たといつわってあなたに告げてもらい、それからとこの上で私はあなたの眼を観察しようと思いましたけれども、用心深いあなたは、眼鏡を御取りにならず
秘密の相似 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
一時間程を経て文三はようやく寐支度をしてとこへは這入はいッたが、さて眠られぬ。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
お銀もとこのうえに起きあがって、蠢動うごめく産児を見てにっこりしていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
私と一所に安倍川へ行って餅を食べて茶をんで帰った事もあったんですが、それがいいめを見せたんで、先頃からまたどッととこに着いて、今は断念あきらめた処から、貴女を見たい、一目逢いたいと
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と其の夜は根岸のうちへ泊込み、酒肴さけさかなで御馳走になり大酩酊おおめいていをいたしてとこに就くが早いかグウクウと高鼾たかいびきで寝込んでしまいました。
しかし、まだ暑いので、とこを取る気にはならない。仰向けに倒れて力抜けがした全身をぐッたり、その手足を延ばした。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
晋齋も心中しんちゅうを察していると見え、心持がわるくば寝るがいゝと許しますので、お若はとこをとって夜着よぎ引っ被りましたが、何うして眠られましょう
とこへ這入つてからも、疲れてはゐながら、ゆうべの樣に眠りつけない。お鳥が到着しさへすれば、勇が出さないでも、かの女から直接に返電しさうなものだ。
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
前にとこを取り、桐の胴丸がたの火鉢へ切炭きりずみけ、其の上に利休形の鉄瓶がかゝって、チン/\と湯がたぎって居りまする。
「風を引くから、起きたらどうだ? そして、ここへとまるつもりなら、とこを取つたらいいでないか?」かう義雄が云つても、かのぢよは返事もせず、動きもしない
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
これを形見にとて譲られた合口を持ったなり、とこをいざり出て、そっと音のしないように雨戸を明け、室着へやぎの儘ですそを敷いたなりで、そろ/\と飛石伝とびいしづたいに
女はそれでもまだ醉はない、醉はないと負け惜しみを云ひながら、ぐでん/\になつてとこに這入つた。
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
お鳥はとこをぬけ出で、蒲團の裾に當る押し入れの膳やまな板を入れてある方の唐紙を靜かにあけた。
義雄はそれを自分のかすりの單衣ひとへに着かへさせ、重い雛人形の樣に横抱きにしてとこに入れる。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
家に歸ると、直ぐ、千代子の母——もう、とこに這入つてゐた——を書齋に呼びつけ
僕は、妻をとこにつけてから、また井筒屋へ行って飲んだ。吉弥の心を確かめるため、また別れをするためであった。十一時ごろ、帰りかけると、二階のおり口で、僕をとらえて言った。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
「まだとこに這入つてゐない、な。」坐わつて、酒のにほひをぷん/\させる。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
お鳥はこれを怒つて、いつもさきにとこへ這入つてゐた。
その夜、とこに這入つてから
泡鳴五部作:01 発展 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)