行詰ゆきづま)” の例文
中世的世界が行詰ゆきづまって近世科学の時代に入った時、自己表現的なる歴史的実在の世界は、自己自身に返って新なる哲学の出立点を求めた。
デカルト哲学について (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
お松がこんなよそおいをしてまで、甲府を逃れ出さねばならなかった理由は、全くあっちでは行詰ゆきづまってしまったからであることは申すまでもありません。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それと見てMも上衣うわぎを引っかけて廊下へ出た。学生はうしろを気にするように、時おりり返りながら廊下の行詰ゆきづまりへ往って、それから階段をおりて往った。
死体を喫う学生 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
念の為に一寸ポオ式のディシファリングを試みて見たが、少しも解けない。俺はここでハタと行詰ゆきづまって了った。
二銭銅貨 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
わたくしは南京米なんきんまいをごしごしとぎながら、無花果の枯葉を眺め、飽き果てし身に似たりけり……と口ずさんだが、後の五字に行詰ゆきづまってそのまましてしまった。
枯葉の記 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
誰某たれそれはいが、行詰ゆきづまつたてに、はくをつけにくのと、おなじだとおもはれると、大変たいへん間違まちがひなんだ。」
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
二葉亭の直話にると、いよいよ行詰ゆきづまって筆が動かなくなると露文で書いてから飜訳したそうだ。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
そして行詰ゆきづまつたやうな表情をしてそばにゐた日本人の画家を見た。その人は有島氏の友人だつた。
……使った金子かねに世の中が行詰ゆきづまって、自分で死ぬのは、間違いにしろ、勝手だが、死ぬのに一人死ねないで、未練にも相手の女を道づれにしようとして附絡つけまとうのは卑劣じゃあないか。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
此處まで來ると、平次もハタと行詰ゆきづまります。
自然頭の中が忽ち空乏となって、文章上の工風くふうも構想上の進歩も行詰ゆきづまって飽かれてしまった。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
沢が、声を掛けようとして、思はず行詰ゆきづまつた時、向うから先んじて振向ふりむいた。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
割って出たけれども、さしあたり仲裁の言葉に行詰ゆきづまって
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かゝなかにも社会しやくわい大勢力だいせいりよくいうする文学者ぶんがくしやどのは平気へいき平三へいざ行詰ゆきづまりしともおもはず。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)