蛇足だそく)” の例文
したがって百代子の年寄二人からもたらした返事もここに述べるのは蛇足だそくに過ぎない。要するに僕は千代子の捕虜になったのである。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たぶんそういう方面に詳しい専門家が別項で述べ尽くされることと思うから、ここで自分などが素人しろうとくさい蛇足だそくを添える必要はないであろう。
俳句の精神 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
著者としても、さらに蛇足だそくを加える余地がないので、単に蕪村との比較を主とし、かつその句に自己の主観的評釈を附した。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
以下はその座談筆記の全文であって、ところどころの括弧かっこの中の文章は、私の蛇足だそくにも似た説明である事は前回のとおりだ。
花吹雪 (新字新仮名) / 太宰治(著)
上三句はすらりとして難なけれども、下二句は理窟なり蛇足だそくなりと存候。歌は感情を述ぶる者なるに理窟を述ぶるは歌を知らぬ故にや候らん。
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
一八一五年六月十八日の払暁ふつぎょう、ロッソンムの高地に双眼鏡を手にして馬上にまたがったナポレオンの風姿を、ここに描くことはおそらく蛇足だそくであろう。
最後に蛇足だそくながら、秘められた国史のカギの一ツが、この複雑な陰謀の中に現れて何かを暗示しているようだ。
安吾史譚:02 道鏡童子 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
蛇足だそくを加えた。しかし皆はナカ/\床につかない。初めて宿屋に泊るのが嬉しくて、いつまでもはしゃいでいる。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
単純な説話で置いたらまだしも、無理に場面をにぎわすためかき集めた千々石ちぢわ山木やまきの安っぽい芝居しばいがかりやら、小川おがわ某女の蛇足だそくやら、あらをいったら限りがない。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
編輯者 それは蛇足だそくです。折角の読者の感興をぶち壊すようなものじゃありませんか? この小品が雑誌に載るのだったら、是非とも末段だけはけずって貰います。
奇遇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この附記は、らいてうさんの出発点をよく知らぬ人のために、蛇足だそくかもしれぬがしるしておく。
平塚明子(らいてう) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
斯上このうえ蛇足だそくを加うる要はないかも知れぬ。然し寄生木によりて一種の縁を将軍夫妻に作った余には、また余相応そうおうの義務が感ぜられる。此義務は余にとって不快な義務では無い。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
という結末の文句なぞは蛇足だそくで、あんな説明はなくともすでに充分わかっているといってくれた人もあり、その通りと同感しながらも、それも削らず、ほうっておくことにした。
次に、私の序文の問題ですが、これは今日国際的に新しいテーゼが出て、あの問題に対する一般的理解が進んでいるので、いまさら私ごときが蛇足だそくを添える必要はないと思います。
それらの人々には蛇足だそくであるかも知れないが、私はかく結論まで陳述せねばならぬ。
一枚の切符 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
茅場町かやばちょうでおのりかえ。」と車掌が地方訛いなかなまりで蛇足だそくを加えた。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「あれからは、蛇足だそくだつたな……」
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
「これは蛇足だそくですな」
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「焼芋を食うも蛇足だそくだ、割愛かつあいしよう」とついにこの句も抹殺まっさつする。「香一炷もあまり唐突とうとつだからめろ」と惜気もなく筆誅ひっちゅうする。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この方面に関しては私ははなはだ不案内であるが上述の所説の行きがかり上少しばかり蛇足だそくを加えることを許されたい。
日本人の自然観 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
必ず、最後に、何か一言、蛇足だそくを加える。「けれども、だね、君たちは、一つ重要な点を、語り落している。それは、その博士の、容貌についてである。」
愛と美について (新字新仮名) / 太宰治(著)
描いて狂い死して花びらに埋まってしまう(このところ小生の蛇足だそく)という話もあり
桜の森の満開の下 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
山水などの完全したる画には何も文字などは書かぬ方が善いので、完全した上に更に蛇足だそくの画賛を添へるのが心得ぬ事である。しかし人の肖像などを画きたる者には賛があるのが面白い場合がある。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
なるべく論理を簡潔にし、蛇足だそくの説明を除こうとしたからである。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
私自身の言葉を蛇足だそくながらつけ加えて、先生の告別の辞が、先生の希望どおり、先生の薫陶くんとうを受けた多くの人々の目に留まるように取り計らうのである。
ケーベル先生の告別 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その間に私の下手へた蛇足だそくを挿入すると、またこの「女の決闘」という小説も、全く別な廿世紀の生々しさが出るのではないかと思い、実に大まかな通俗の言葉ばかり大胆に採用して
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そうしてせっかく新たに入れたものにはどうも蛇足だそくが多いようである。たとえば、最後の幕で、教授が昔なつかしい教壇のやみに立ってのあのことさらな独白などは全くないほうがいい。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
このもらひ水といふ趣向俗極まりて蛇足だそくなり。朝顔に釣瓶を取られたとばかりにてかへつて善し。それも取られてとはもっとも俗なり。ただ朝顔が釣瓶にまとひ付きたるさまをおとなしくものするを可とす。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
私のそれにつけ加えた蛇足だそくな文句も、先生の去留によってその価値に狂いが出てくるはずもないのだから、われわれは書いたこと言ったことについて取り消しをだす必要は
戦争からきた行き違い (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さて、これで物語は、どうやら五日目に、長兄の道徳講義という何だか蛇足だそくに近いものに依って一応は完結した様子である。きょうは、正月の五日である。次男の風邪も、なおっていた。
ろまん灯籠 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ただ叔父さんがこう云う事に明らかだから、あるいは知っておいでかも知れないと思って、ちょっと蛇足だそくに書き添えただけです。僕の御報知したいのは実はこの広い土間ではなかったのです。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)