虚勢きょせい)” の例文
卑屈ひくつになるなと云った男の言葉がどしんと胸にこたえてきて、いままでの貞女ていじょのような私の虚勢きょせいが、ガラガラとみじめに壊れて行った。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「構えて、左様な、虚勢きょせいを固持しておられるうちは、仔細に、申すわけに参りません。まず謙虚けんきょをお示しなくば」
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
西村のせた顔が、変に赤らんで来た。彼はもう手紙の口述をしなくなった。そして、目は天井への虚勢きょせいを忘れ、少女のなめらかな首筋へ食い入っていた。
それは形の上の習練で内容的には一向に習練されてはいないのだが、家康という人は、つまりそういう虚勢きょせいの、上ッ面だけのお上手が下手であった証拠だ。
家康 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
交際つきあえば悪びれた幇間ほうかんになるか、威丈高いたけだか虚勢きょせいを張るか、どっちか二つにきまっている。瘠我慢やせがまんをしてもひがみを立てて行くところに自分の本質はあるのだ。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
小平太が進んでこの危い役割を引請ひきうけたのは、一つは心のうちを見透みすかされまいとする虚勢きょせいからでもあったが、一つにはまた、ここで一番自分の働きぶりを見せて
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
漢学者の使用する一句に、「羊質虎皮ようしつこひ」というのがあって、外面虎皮こひをかぶりて虚勢きょせいを張り、内心ないしん卑怯ひきょうきわまる偽物にせものす成語としてあり、楊雄ようゆう(前五八—後一八)の文に
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
人を恐れないだからと頻りに虚勢きょせいを張ったのは当人も持病の人癲癇を気にしていたのだろう。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そんないわれのない優越感で、彼は茶をすすり、煙草をふかしていた。と言っても、今直ぐ堂々と外に出て行く勇気はなかった。優越感といっても、それは若さが持つ虚勢きょせいに過ぎなかった。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
考えてみると、道江の問題について、これまで自分のとって来た態度のすべては、要するにお体裁ていさいであり、偽善であり、下劣げれつな自尊心の満足であり、劣等感れっとうかんをごまかすための虚勢きょせいでしかなかったのだ。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
お綱がうわべにまとっている、はりだのきゃんだの意気地だの、そんな虚勢きょせいはみんな脱がして裸のお綱にしてみせる。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は虚勢きょせいを張って、快活らしく答えるのであった。此頃このごろでは、何につけても虚勢が彼の習慣になっていた。
お勢登場 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
虚勢きょせいを張っていた僕も、矢張り同級生で一足先に来ていたのが理科千五百何番という受験証票を見せてくれたのには、もとより覚悟の上ながら容易のことでないと思った。文科は更に多かった。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「き、きさま、あ、あ、明智だな。」二十面相は虚勢きょせいをはって、大きな声でどなりつけました。しかし、おびえきっているしょうこには、その声がひどくふるえているのです。
妖怪博士 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
なんにつけても氏直は、いま、四りん虚勢きょせいっているところだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、かれとしては、らざるをない虚勢きょせいをはって
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)