茅屋根かややね)” の例文
沢庵は承知して、すぐ草履を穿いた。そして、丘の下に見える茅屋根かややねへ向って、大きな声で誰か呼んだ。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
高いドーム型の茅屋根かややねをもち、床に小石を敷いた・四方の壁の明けっぱなしの建物だ。マターファの家も流石さすがに立派だ。家の中は既に暗く、椰子殻やしがらの灯が中央にともっていた。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
厚く雪を被った百姓家の茅屋根かややねからは蒸気が濛々もうもうとあがっていた。生まれたばかりの仔雲! 深い青空に鮮かに白く、それは美しい運動を起こしていた。彼はそれを見ていた。
雪後 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
しかしもうその時にはこの一家の茅屋根かややねの空も冷やかに暁を迎へ出してゐた。……
一塊の土 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
夏ははちすの花が早抹あさあけに深いもやの中にさいて、藪の蜘蛛くもの巣にも花にも朝露がキラキラと光って空がはれていった。藪には土橋をかけて、冠木門かぶきもんの大百姓の広庭ひろにわと、奥深く大きな茅屋根かややねが見えていた。
くも黒髪くろかみごとさばけて、むねまとひ、のきみだるゝとゝもに、むかうの山裾やますそに、ひとつ、ぽつんとえる、柴小屋しばごや茅屋根かややねに、うす雨脚あめあしかつて、下草したぐさすそをぼかしつゝ歩行あるくやうに、次第しだい此方こちら
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
やがて面々は目顔で、いましめ合っていた。草ぶかい山家やまが茅屋根かややねがおちこちに見えて来たからである。そうした人里はつとめて避けたいのであるが、道はおのずから家々の間へ入ってゆく。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
茅屋根かややねの雪は鹿子斑かのこまだらになった。立ちのぼる蒸気は毎日弱ってゆく。
雪後 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
俊秀と五郎は、あきらめきれぬように中へはいって、茅屋根かややねの下のを覗きまわった。——と、思わぬものがそこにひかえていた。一匹のがまだった。逃げもするふうではないのである。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
またせめて、主上、法皇、上皇、女院がたなどには、のみしらみのなやみや馬の尿いばりに近いむしろはぜひないとしても、露をしのぐ茅屋根かややねの下でもと、自身奔走していくつかの山家を御宿所にさがし求めた。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雨の漏る茅屋根かややねの下に、生活くらしを初めた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)