色合いろあい)” の例文
余り広くはないけれど、壁紙、窓かけ、絨毯じゅうたんなどの色合いろあいや調度の配列に細かい注意が行届いていて、かなり居心地のよい部屋であった。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それ故に、一民族の有する或る具体的意味または言語は、その民族の存在の表明として、民族の体験の特殊な色合いろあいを帯びていないはずはない。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
この色合いろあいの変化は、本当に前よりもよくなったというもので、メアリゴウルドの髪を赤ちゃんの時よりも立派に見せました。
なおまた、反乱と暴動と、両者を区別する前述のごとき色合いろあいを、いわゆる中流民は知るところはなはだ少ない。
食物の味わいのうまいまずいや、着物の色合いろあいのよしあしや、はなはだしきは女の髪の結振ゆいぶりの恰好不恰好に至るまで、子供のくせに非常に精密な賞翫力しょうがんりょくを持って居る。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しわのよった小さな顔は赤みがかって、人のよさそうなあおいろのさめかけた瑠璃草るりそうのような色合いろあいだった。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
なるほど若い女の着るがらだけに、しまがただ荒いばかりでなく、色合いろあいもどっちかというとむしろ派出はで過ぎた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「そんなめちゃをなさらずに、どうか、ゆるしてあげてください。その金財布かねざいふが、げんざい、あなた方の持物もちものでない証拠しょうこには、がらも色合いろあい女物おんなものではありませぬか」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは、じつに怪奇というかグロテスクというか、すさまじい格好かっこう色合いろあいのものであった。全長は一メートルよりすこし長いくらいで太短かい。上半身は大きいが、下半身が発達していない。
三十年後の世界 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そしてその風の吹く時には、きっと福浦岬から続いた海中に加賀かがの白山がくっきりとそびえ立っているのが見えるのでした。そのほかの時には大抵たいてい、空の色合いろあいや、雲の具合で見えないのが普通でした。
少年と海 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
そうしたことによって、横町の色合いろあいはだんだん変って行った。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
見るとそれは相当の実業家らしい洋服姿で、落ちついた色合いろあいの、豊かな春外套はるがいとうを波うたせ、開いた胸からは、太い金鎖がチラついていました。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
余はその色合いろあいの長い間におのずびたくすみ方に見惚みとれて、眼を放さずそれを眺めていたが、ふと裏を返すと、私はこの画の中にあるような人間に生れたいとか何とか
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
また事実として、たとえばダンディズムと呼ばるる意味は、その具体的なる意識層の全範囲にわたって果して「いき」と同様の構造を示し、同様のかおりと同様の色合いろあいとをもっているであろうか。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
必ず甲か乙かのどっちかでなくては承知できないのです。しかもその甲なら甲の形なり程度なり色合いろあいなりが、ぴたりと兄さんの思う坪にはまらなければうけがわないのです。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「それがハッキリしないんだ。赤い光りの下で、しかも小さな節穴から見たんだからね。似ている様にも思うけれど、オーバーコートの色合いろあいなんて、同じのがいくらだってあるからね」
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかし、いかに色と色とを分割してもなお色と色との間には把握しがたい色合いろあいが残る。そうして聴覚や視覚にあって、明瞭な把握にれる音色や色合を体験として拾得するのが、感覚上の趣味である。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
それで人間というものには二通りの色合いろあいがあるということは今申した通りですが、このイミテーションとインデペンデントですが、片方はユニテー——人の真似をしたり
模倣と独立 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
手首のところから切りとったひらである。老人形師は、自分の手をひらいて、それとならべて机の上にさし出した。小さな皺の一つ一つ、しなびた老人の手の色合いろあいが、そのまま出ている。
悪霊物語 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
色合いろあいといい、大きさといい、それらは余りに似過ぎていたばかりでなく、運転手の右手にはめた手袋の飾釦がとれてしまって、ホックの坐金ざがね丈けしか残っていないのは、これはどうしたことだ。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「いい色合いろあいじゃのう。端渓たんけいかい」
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)