船首へさき)” の例文
「ええと、それから大砲が二門、船首へさき船尾ともとに備えつけてあった。それも尋常な大砲ではない。そうだ、やっぱり南蛮式であった」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
錨を抜いた港から、汽笛と共にゆるぎ出て、乗ツてる人の目指す港へ、船首へさきを向けて居る船にはちがひない。
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
そのため舟は船首へさきの所まで裂けてしまった。男は舟から飛びだして逃げてしまった。パーリオンナイは部下とともに川へ落ちて流れただよい、やっとのことで家へ帰りついた。
えぞおばけ列伝 (新字新仮名) / 作者不詳(著)
「うむ、ガラ空きだ。おれは船首へさきも、船尾ともの方も、上から下まで探した。大きな声で呼んでみた。けれどだアれもいやしない。かじにも、帆檣ほばしらにも、甲板の何処にも、まるで人がいないんだ」
春の日ののどかな光が油のような海面にけほとんどさざなみも立たぬ中を船の船首へさきが心地よい音をさせて水を切って進行するにつれて、かすみたなびく島々を迎えては送り、右舷うげん左舷さげん景色けしきをながめていた。
忘れえぬ人々 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
黒き船首へさきの船めがけ、猛然としてヘクトール
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
諏訪因幡守いなばのかみ忠頼の嫡子、頼正君は二十一歳、冒険敢為かんい気象きしょうを持った前途有望の公達きんだちであったが、皆紅の扇を持ち、今船首へさきに突っ立っている。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
船首へさき眞直の舟のそば、見よ彼坐して亡びたる
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
船首へさきへよろよろ ヨーイトサ)
えぞおばけ列伝 (新字新仮名) / 作者不詳(著)
舟の船首へさきには一人の美しい公子がおりまして、人魚に笑いかけ、そして手に持っていた銀の竪琴をかき鳴らし、誘惑の歌を歌ったのでござります。
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
月の良い晩でございましたが、ぼんやり船の船首へさきに立ち、故郷くにのことや兄のことを、思い出していたのでございますな。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
筏船は駸々しんしんと走って来る。歌のような帆鳴りの音がする。泡沫しぶきがパッパッと船首へさきから立つ。船尾ともから一筋水脈みおが引かれ、月に照らされて縞のように見える。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
船は大きく一つ揺れたが、そのままツツーと帆を上げると、グルリ船首へさきを沖へ向け、辷るがようにはしり出した。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
船首へさき船尾ともとに船夫かこがいた。纐纈布のどてらを着た、若いたくましい船夫であったが、去年の初秋甚太郎を、纐纈城へさらって行った、その船夫の中の二人であった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ギーときしる音がして、船隊は船首へさきを西南に向けた。若殿のご座船を先頭にして神宮寺の方へ進んで行く。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
船首へさきに竜の彫刻ほりものがある。その先からふさが下がっている。月光に照らされて朦朧と見える。魔物のように速い速い。六人が櫂を漕いでいる。一人が梶を握っている。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
颶風ぐふうの起こる少し前である、大船の船首へさきに佇んで、空を見ている人物があった、天文学者西川正休。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
船が進むに従って、群がり飛んでいた水鳥が、ムラムラと船首へさきへ群がって来てまた雪のようにパッと散るのが、物皆な静かな風景の中で唯一つ動くものの姿と云えよう。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
俺と夏彦とは二人きりで船の船首へさきに突立ちあがり、互いに白刃を抜き合わせ思うままに戦った。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そうの僚船がいて来る。一杯に帆が張られてある。船首へさきに突っ切られる波の穂が、白衣の行者でもはしるように、灰色の海上で踊っている。陸は見えない、どっちも水だ。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
どこからともなく一本の征矢そやが、ヒュ——ッと飛んで来たのである。舟の船首へさきへ突っ立った。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そうして船の船首へさきにあたり、一個の人物が突っ立っていた。どうやら海賊の首領らしく、手に一丁の種子ヶ島を捧げ、じっとこっちを狙っていた。武士を狙っているのであった。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それは将しく軍船いくさぶねであった。二本の帆柱、船首へさき戦楼やぐら矢狭間が諸所に設けられている。
鵞湖仙人 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
船首へさきを黄金の鷲で飾った一隻の巨大の商船の船長となれるっていうことでして
死の航海 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一隻の船が船首へさきを宙に、鯨の尾のように上げたではないか! 無数に海中へ落ち込む者? 乗り組みの武士だ! 葬られたのだ。と、その船首さえ見えなくなった。深い深い谿がそこへ出来た。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
八幡大菩薩の大旗を、足利あしかが時代の八幡船のように各自めいめい船首へさきへ押し立てた十隻の日本の軍船いくさぶねが、太平洋の浪を分けて想像もつかない大胆さで、南米墨西哥メキシコへ向かったのは天保末年夏のことであった。
「石置き場の空屋敷へ行くのだよ」二隻の船は船首へさきを揃えた。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
船首へさきには老婦人が立っている。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)