腹背ふくはい)” の例文
如何な乱暴者も、走り疲れた所へ、腹背ふくはいに敵を受けてはかなわぬ。烈しい格闘の末、ゴリラとうとう捕縛されてしまった。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
この場合、弦之丞は、後からくるお十夜を先に討つべきか、それとも、旅川周馬を先に追おうか? 前後の敵、腹背ふくはいの難——さすがに迷いみだれていた。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
野面のづらいちめんに草いきれがたち、蒸風呂のなかにでもいるようで、腹背ふくはいから、ひとりでに汗が流れ走る。
ひどい煙 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
やがて粟津あわづの岸を占領してからは、官軍も腹背ふくはいの脅威にあきらかな苦悶をみせはじめ——またまもなく、正面のこう師泰もろやすも、瀬田の一角を突破していた。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は今、何も知らないで、戸の隙間から警官達を威嚇いかくしているけれど、やがて背後の入口から、別の警官隊が殺到するのだ。腹背ふくはいに敵を受けては、いかな兇賊も運の尽きに違いない。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
おおせながら、ひとたび軍旅を遠くはせて、とうげしずたけ険路けんろを、吹雪ふぶきにとじこめられるときは、それこそ腹背ふくはい難儀なんぎ、軍馬はこごえ、兵糧ひょうろうはつづかず
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とみた野武士の猛勇もうゆうは、ワッと声つなみをあげて、蛇形陣だぎょうじん腹背ふくはいから、勝ちにのって攻めかかった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もし、尊氏の水軍本隊が、生田の辺に上陸したなら、さしずめ味方は腹背ふくはいに敵だ。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さらには野伏から土地の散所民さんじょみんまでが、こぞって寄手方の背へ、けわしい形相をしめしたなどが、鎌倉勢には腹背ふくはいおびえとなって、さしも大軍とみえた金剛山麓のありのようなものも
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すでに姜維の奇略に落ちて、さんざんに駈け散らされた趙雲の蜀兵は、平路を求めて潰走かいそうしてくると、ここにまた、馬遵の旋回して来るあって、腹背ふくはいに敵をうけ、完膚かんぷなきまでに惨敗を喫した。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遠く聯携れんけいして、腹背ふくはいからたえず信長を苦しめていた反信長派の一環、武田信玄が忽然こつぜんと死去したことも、本願寺にとっては、片翼をもがれたようなものだったし、つづいて越前の朝倉、江州ごうしゅうの浅井
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
秀吉をして腹背ふくはい二面の苦境におちいらしめんとする意図であったのだ。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あなたでは民部みんぶの苦戦、ここでは伊那丸と咲耶子が、腹背ふくはいの敵にはさみ討ちとされている。二ヵ所の狂瀾きょうらんはすさまじい旋風せんぷうのごとく、たばしる血汐ちしお丁々ちょうちょうときらめくやいば、目もけられない修羅しゅらの血戦。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)