胸騒むなさわ)” の例文
旧字:胸騷
さて引金ひきがねを引きたれども火うつらず。胸騒むなさわぎして銃を検せしに、筒口つつぐちより手元てもとのところまでいつのまにかことごとく土をつめてありたり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
場長じょうちょう同僚どうりょうと話をしているのに、声がひくくてよく聞きとれないと、胸騒むなさわぎがする。そのかんにも昨夜さくや考えたことをきれぎれに思いださずにはいられない。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
康頼 (おきを眺める)この島に来るのなら! (考える)来るかもしれないぞ。わしは昨夜から不思議に胸騒むなさわぎがしていたのだ。何か大きな幸福が来るような……
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
お綱は、今の動悸どうきの消えないうちに、またあわただしい胸騒むなさわぎを重ねた。けれど、それは前の不愉快な驚きではなく、あまり不意に与えられた喜びの狼狽ろうばいであった。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お沢 いいえ、いいえ……昨夜ゆうべまでは、打ったままで置きました。わたしがちょっとでも立離れますに——今日はまたどうした事でございますか、胸騒むなさわぎがしますまで。……
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
姉のエルネスチイヌは、母親のために侮辱を感じ、なんとなく胸騒むなさわぎがしている。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
この恐ろしい刹那せつな、総立ちになった数千の見物は、彼らの胸騒むなさわぎに引きかえて、その表情は、そろいも揃った笑い顔であった。セルロイド製「レビュー仮面」のほがらかなえがおであった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
鶴吉は何んとなく胸騒むなさわぎがして、お末の後から声をかけた。お末は外で
お末の死 (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
「うん。虫の知らせと言おうか。なんとなくこう胸騒むなさわぎがしてならねえ」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
とこなつのはなは、なんとなく胸騒むなさわぎをかんじた。
公園の花と毒蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
女は一方ひとかたならぬ胸騒むなさわぎが、つつみきれないようすで、顔は耳まであかくなってるのが、自分にはいじらしくしてたまらなかった。自分もらちもなく興奮こうふんして、じょうだん口一つきけない。
落穂 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
この時もいたく胸騒むなさわぎして、平生へいぜい魔除まよけとして危急ききゅうの時のために用意したる黄金おうごんたまを取り出し、これによもぎを巻きつけて打ち放したれど、鹿はなお動かず、あまり怪しければ近よりて見るに
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
胸騒むなさわぎがする』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)