肥桶こえおけ)” の例文
くわを肩に掛けた男もあり、肥桶こえおけかついで腰をひねって行く男もあり、おやじの煙草入を腰にぶらさげながら随いて行く児もありました。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ずッと昔は、細長い肥桶こえおけで、馬に四桶附け、人も二桶になって持って来たが、後、輪の大きい大八車で引く様になり、今は簡易な荷車になった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「御主君がくわを持つなら鍬を持って。御主君が肥桶こえおけをかつぐなら自分らも肥桶をかつぎ。——たとえ、ひえを喰っても!」
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
翌朝、彼が縁側でぼんやりたたずんでいると、畑のなかを、朝餉あさげの一働きに、肥桶こえおけかついでゆく兄の姿が見かけられた。
永遠のみどり (新字新仮名) / 原民喜(著)
爾薩待「そうでしょう。また肥料があんまり少ないのでもない。また硫安を追肥ついひするのに濃過こすぎたのでもない。まあ肥桶こえおけ一つにこれ位入れたでしょう。」
植物医師:郷土喜劇 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「なるほど、そいつは変っているな、——どうせ死ぬのに、場所のり好みなどは贅沢ぜいたくのようだが、不思議に肥桶こえおけの中へ首を突っ込んで死ぬ奴はないものだな」
ムグラモチを驚かすつちの子の響き、肥桶こえおけのきしみ、これに付け加えた畏嚇いかくの語のごときは、北も南も一様に簡明であって、ただ奥羽・越後の諸県では凍った雪の上を
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
聞けば囲いのしてない所へ肥桶こえおけが二つ三つ並べてあって、男も女も立ちながら用を足すのだと云う。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
親爺は、肥桶こえおけをかついだり、牛を使ったりするのを、如何にも物憂げに、困難げにしだしていた。米俵をかつぐのは、もう出来ないことだった。晩には彼は眠られなかった。
浮動する地価 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
男というものは野良姿のらすがたのままで、手足のつめの先にはどろをつめて、眼脂めやにかず肥桶こえおけをかついでお茶屋へ遊びに行くのが自慢だ、それが出来ない男は、みんな茶屋女の男めかけになりたくて行くやつだ
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
斯く云う彼も、東京住居中は、昼飯時ひるめしどきに掃除に来たと云っては叱り、門前に肥桶こえおけを並べたと云っては怒鳴どなったりしたものだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「百姓がしたいなら、楼桑村へ帰りゃあいい。何も都に第宅ていたくを構え左将軍なんていう官職はいるまい。肥桶こえおけをかつぐに、われわれ兵隊などもいらんわけだ」
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おや、このせきの去年のちいさな丸太のはしは、雪代水ゆきしろみずながれたな、からだだけならすぐべるんだが肥桶こえおけをどうしような。阿部君、まず跳びえてください。
イーハトーボ農学校の春 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
棒で肥桶こえおけの腹をこすってキーキーという音を立て、耕地の上を転がしてまわると鼹鼠もぐらげるといって、関東・信越の田舎いなかでは、今でも農家の主人が出て行って、このまじないをするふうもあるが
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
葛西かさい肥料屋こやしやでは、肥桶こえおけにぐっとうでを突込み、べたりと糞のつくとつかぬで下肥しもごえ濃薄こいうすい従って良否を験するそうだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
行き所のない彰義隊の人々は、山野に入って、くわったり、肥桶こえおけになって、妻子を養った。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
農民一「まず肥桶こえおけ一杯の水さ、この位までて言うます。」
植物医師:郷土喜劇 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「そうでしょう、その玄徳が、何でにわかに、菜園に肥桶こえおけをになったり、鼻毛をのばしていたかです。——丞相ほどな熒眼けいがんが、どうして玄徳だけにはそうお甘いのでしょうか」
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だからわしも、努めて菜園に肥桶こえおけになったり、雷鳴に耳をふさいだり、箸を取落したりして見せている次第だ。しかし、聡明敏感な彼のことだから、避けて近づかなければ、また、猜疑さいぎするだろう。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
破れた雨戸を横に立てて、その中に肥桶こえおけに似たものがある。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)