肉桂にっけい)” の例文
この境内の玉川尻に向った方に、葭簀よしず張りの茶店があって、肉桂にっけいの根や、煎豆や、駄菓子や、大師河原だいしがわらの梨の実など並べていた。
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
が、良平はそう云う中にも肉桂にっけいの皮をみながら、百合ゆりの事ばかり考えていた。この降りでは事によると、百合の芽も折られてしまったかも知れない。
百合 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
麝香じゃこうでも肉桂にっけいでも伽羅きゃらでも蘭奢待らんじゃたいでもない。いやそんなものよりもっとよい、えも言われぬ香りでした。
天狗の鼻 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
そのじぶん上野公園から谷中の墓地へかけては何千本という杉の老木が空をついて群立むらだち、そのほかにもしいかし、もち、肉桂にっけいなどの古い闊葉樹かつようじゅが到る処繁ってたので
独り碁 (新字新仮名) / 中勘助(著)
『胸算用』には「仕かけ山伏」が「祈り最中に御幣ごへいゆるぎいで、ともし火かすかになりて消」ゆる手品の種明かし、樹皮下に肉桂にっけいを注射して立木を枯らす法などもある。
西鶴と科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それをモー一層美味しくするのは南瓜とうなすを蒸すかあるいは湯煮ゆで裏漉うらごしにして好い加減と思うほど今の物へ混ぜて肉桂にっけいの粉を加えて蒸すのです。肉桂の粉は南瓜の味を出します。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
エミマは「鳩」を意味し、ケジアは「肉桂にっけい(香料として)」を意味しケレンハップクは「眼に塗る化粧薬のつの」を意味す。原名においてはいずれも優雅な名であったことと思う。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
微風にうなずくたびに匂う肉桂にっけい園、ゆらゆらと陽炎かげろうしているセントジョセフ大学の尖塔せんとう、キャフェ・バンダラウェラの白と青のだんだら日よけ、料理場を通して象眼ぞうがんのように見える裏の奴隷湖
ヤトラカン・サミ博士の椅子 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
茯苓ぶくりょう肉桂にっけい枳穀きこく山査子さんざし呉茱萸ごしゅゆ川芎せんきゅう知母ちぼ人参にんじん茴香ういきょう天門冬てんもんとう芥子からし、イモント、フナハラ、ジキタリス——幾百千種とも数知れぬ薬草の繁る中を、八幡やわた知らずにさ迷い歩いた末
ソーニャは何やら肉桂にっけい色のじみなものを着ていたが、カチェリーナは一ちょうらのじみなしまサラサの服を身にまとっていた。ルージンに関する報告は、するすると無事になめらかに通過した。
肉桂にっけいが口を出しました、「あたしは現在の境涯にまずまず満足ですわ。そりゃここは退屈といえば退屈ですけれど、その代わりだれにも皮をはがれずにすむことだけは、安心していられますもの。」
郷宿とは藩政時代に訴訟などのために村民が城下に出た時やどる家をいうのである。また諸国を遊歴する書画家等の滞留するものも、大抵この郷宿にいた。山田屋は大きい家で、庭に肉桂にっけいの大木がある。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
林のなかは浅黄あさぎいろで、肉桂にっけいのようなにおいがいっぱいでした。
かしわばやしの夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
与五兵衛は「肉桂にっけいの葉だ」と答えた。
肉桂にっけいの根を束ねて赤い紙のバンドで巻いたものがあった。それを買ってもらってしゃぶったものである。チューインガムよりは刺激のある辛くて甘い特別な香味をもったものである。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
これにはよくった南瓜がいいので皮を剥いて小さく切って蒸すか湯煮るかしてそれを裏漉しにかけて一合の中へ玉子の黄身を一つ位入れて砂糖と肉桂にっけいの粉で味をつけて玉子焼鍋へ油を
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
大匙四杯入れてシンナモンの粉即ち肉桂にっけいの粉を小匙に軽く一杯とグローブス即ち丁子ちょうじの粉を小匙に軽く一杯加えてんなよく混ぜ合せてベシン皿か丼鉢どんぶりばちへ入れてテンピの中で二十五分間焼きます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
○シンナモンは肉桂にっけいの粉、ナットメッグは肉豆蔲にくずくの粉。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)