羅列られつ)” の例文
かかる緊切なる当面の要求に応じて生まれた本講座は、歴史的事実の単なる羅列られつ、説明をもって能事おわれりとするものではない。
一方ではまた浅薄な概括的論述を羅列られつした通俗科学的読み物がはなはだしく読者をあやまるという場合もしばしばあるであろう。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
彼には、あの砲弾のような鮪の鈍重な羅列られつが、急に無意味な意味を含めながら、黒々と沈黙しているように見えてならなかった。
花園の思想 (新字新仮名) / 横光利一(著)
事実の羅列られつのためにも書かなかったつもりである。私は大音楽家達に対する心持を、散文詩のように、少しばかりの陶酔と、詠嘆えいたんをさえ交えて書いた。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
或る点に達するまでは唯事実を羅列られつした平浅な客観写生句であることもやむをえません。私は辛抱しんぼうしてそういう句をも選んでやがてその上堂じょうどうを待っています。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
うっかり読んでいれば、迷信的な因縁ばなしや、荒唐無稽なたとえ話の羅列られつにしか感じられない。そして、順序に連絡が欠けている点さえ読む者に苦渋を与える。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
内容はそれだけでほとんどつきており、あとはいろいろの感情をった言葉の羅列られつにすぎなかった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
どうしてあのようにいつまでも、面白がって続けているかと思うほど、意味の解しにくい文言の羅列られつだが、「かごめ・かごめ」というのがやはりまた同じ遊びであった。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
朝な夕な店頭に据わって眺め暮らして居る銀座通りの光景が、やゝともすると燦爛さんらんたる宝石の羅列られつするように見えたり、房々ふさ/\とした女の黒髪ののたくるように見えたりする。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ああ、なかの数字の羅列られつがどんなに美しく眼にしみたことか。少年は、しばらくそれをいじくっていたが、やがて、巻末のペエジにすべての解答が記されているのを発見した。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
そして、ことに『風雅集』は、その点が特に感じられるように、これでもかこれでもかという態度で同傾向の歌を羅列られつしてあるのである。こころみに一例を挙げよう。先ず春
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
人名羅列られつで叙景が中断されたが、先に云った初夏、青空に雲なき一日のことである。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
サボテンのような、トーテム・ポールのような、麒麟キリンの首のような、こういう異様な羅列られつが、中期原生代の赤錆色の湧出物でおおわれた不気味な谷間の中にヒョイヒョイと立っている。
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
大師伝教でんぎょうが当山をひらかれたのは、王城の鎮護、国土安泰のためと承知いたすが、甲冑かっちゅうをまとい、剣槍を羅列られつし、政争にかかわり、武略をもてあそび、朝命にそむく兇兵にくみして、王土の民を苦しめよとは
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし彼女にとってこの街は無意味なものの羅列られつに過ぎなかった。
女百貨店 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
それは主として捜査艦艇の配置と、その報告の羅列られつだった。
海底大陸 (新字新仮名) / 海野十三(著)
どこまでも意地悪く、羅列られつしているばかりです。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
分子の集団から成る物体を連続体と考えてこれに微分方程式を応用するのが不思議でなければ、色の斑点はんてん羅列られつして物象を表わす事も少しも不都合ではない。
科学者と芸術家 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
今日S子はその締高しめだかを計算したまま算盤をかたづけるのを忘れて帰ったというに過ぎないのです。そして、それは決して恋の通信などではなくて、ただ魂のない数字の羅列られつだったのです。
算盤が恋を語る話 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
かれがこれまで信奉しんぽうもし、実践じっせんにもつとめて来た、友愛・正義・自主・自律・創造、といったような、社会生活の基本的徳目とくもくは、今のかれには、全く力のない、空疎くうそな言葉の羅列られつでしかなかった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
それは、次のような文字の羅列られつであった。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ゾンマーフェルトやその他の数理物理学者はS軸の上近くに座するものであり、純実験、純測定の大家らはK軸に羅列られつされる。これらは科学の成果に仕上げをかける人々である。
ルクレチウスと科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「証拠の羅列られつはもう沢山です」弘一君が突然、イライラした調子で叫んだ。
何者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
お定まりの言葉の羅列られつにすぎなかった。
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
従って一つの楽曲のおもしろさを貧弱な人間の「言葉」と名づける道具で現わすことが困難であると同様にこの映画の律動的和声的要素の長所を文字の羅列られつで置き換えようとすることは
映画雑感(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ただ先祖の名前や号やおくり名が羅列られつしてあるばかりで、そんなものが残っている所を見れば相当の武士さむらいの家柄には相違ないのだが、その人達の属したはんなり、住居なりの記載が一つもないので
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あの小説には、様々の不気味な事実が羅列られつしてあったが、中でもわしの記憶に残っているのは、土葬をした棺を、数年の後開いて見たところが、骸骨の姿勢が、棺に納めた時とまるで違っていた。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
型録的に一から十までを一々羅列られつして見せなくてもよいと思われる。
映画雑感(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
用途を無視し、大小を転倒した鉄製機械の羅列られつなのだ。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかも無秩序に羅列られつしたまでである。
科学と文学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)