素面すめん)” の例文
が、そうした感激がなく、死が素面すめんで人間に迫ってくる場合には、大抵の人間が臆病になってしまう。十三人の場合が、そうであった。
乱世 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
土田はすっかり道具をつけるが、十太夫は素面すめん素籠手すこてである。というのは、打ち込むのは十太夫で、土田は受けるだけだからだ。
饒舌りすぎる (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「どうだい、あの腰つきは」「いい気なもんだぜ、どこの馬の骨だろう」「おかしいねえ、あらよろけたよ」「いっ素面すめんで踊りゃいいのにさ」
ひょっとこ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
着流しに長脇差ながわきざし、ひとつ印籠いんろうという異様な風態ふうていだったので、人目をひかぬはずもなかったが、尾張おわりの殿様も姫路の殿様も、編笠あみがさなしの素面すめん
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
しきりに笛に合せ撥調ばちしらべをしていますが、中にひとり立って、鎌倉舞かまくらまいの稽古をしているお百姓も、麦を踏み大根を抜く日にやけた素面すめん素手すで
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
またその二人が、一方が男であり、一方が女であることも同じだが、あちらのは、女の人がお高祖頭巾こそずきんで覆面をしているのに、男の方は素面すめんです。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
酒肴しゅこうが出ると座がみだれて、肝腎の相談が出来ないというので一どう素面すめんである。ズラリと大広間に居流れて評定ひょうじょうの最中だ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
おそらく、何のたくみもなく、ただ支那帽に支那服のままで、いつもの通りに自然にあるいていたのは私一人だったろう。だが仮装といえばいえるであろう。素面すめんといえば素面であろう。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
土偶中には裸体らたいの物有り、着服ちやくふくの物有り、素面すめんの物有り、覆面ふくめんの物有り、かむり物の在る有り、き有り、穿き物の在る有り、き有り、上衣うわぎ股引ももひきとには赤色あかいろ彩色さいしきを施したるも有るなり
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
なに? 内証話? と芸者は不服そうに、仲居を促して出て行った。小森君、実は、大事な話なんだが、と先刻の酔態はなく、素面すめんのような調子で、声を細め、実印を持って来てくれたか、と訊いた。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
彼は籠手こてだけ着けた素面すめんであるが、稽古着は汗がしぼれるほど濡れていた。彼は近よっていって、重四郎の肩をやさしく叩き、上村と伊勢のほうを見返りながら、「みんなきついらしいな」と云った。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「猿。そちは素面すめんでよい。それをかぶれ」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)