旧字:精進潔齋
先々の旅籠はたごでも、金紙銀紙を焼いて祭りをなし、身は精進潔斎しょうじんけっさい呪文じゅもん修法、種々いろいろあって、ほとんど道中では寝るまもすくない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「昨夜わたしが山の下を通ると、仏のひかりを見た。日をさだめて精進潔斎しょうじんけっさいをして、尊い御仏みほとけを迎えることにしたい」
刻苦勉励、学問をもつかまつり、新しき神道を相学び、精進潔斎しょうじんけっさい朝夕あさゆう供物くもつに、魂の切火きりび打って、御前みまえにかしずき奉る……
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ああ、O'Grieオーグリー煩悩ぼんのうはたけり、信仰は脅かす。精進潔斎しょうじんけっさいのその日に、女人にょにんを得ようとしたのは、返す返すも悲しいめぐり合わせでした。
一週一夜物語 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
それじゃ、御参籠ごさんろうはあすからとなさいますか。ここに来ている間、塩断しおだちをなさるかたがあり、五穀をお断ちになるかたがあり、精進潔斎しょうじんけっさいもいろいろです。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
石山寺へ参詣さんけいさせようとして母の夫人から迎えがよこされることになっている日なのである。右近をはじめ供をして行く者は前日から精進潔斎しょうじんけっさいをしていたので
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)
かろうじて恵まれた肉眼の微光は、その間、やむことを得ずしてさせられた精進潔斎しょうじんけっさい賜物たまものであるとわかっているならば、再び人間の肉と血を見ることによって
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
精進潔斎しょうじんけっさいという類の名目のみは物々しくて、しかもそれを僅かな職業者に代行せしめようとし、または一般にその期日を短く、制約を外形に止めて、内部の効果をかえりみようとしなかったことが
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「謹んで聞けよ。楠木正成公くすのきまさしげこうの碑だ。見ろ、あの小屋にさえ、注連縄しめなわを張って、おれたちは、精進潔斎しょうじんけっさいしてやっているんだ」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
冬の日は分けて短いが、まだ雪洞ぼんぼりの入らない、日暮方ひくれがたと云ふのに、とどこおりなく式が果てた。多日しばらく精進潔斎しょうじんけっさいである。世話に云ふ精進落しょうじんおちで、其辺そのへんは人情に変りはない。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
また弟子の中の祈祷きとうの効験をよく現わす僧などにも命じていたこの客室での騒ぎを家主は聞き、その人は御嶽みたけ参詣のために精進潔斎しょうじんけっさいをしているころであったため
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「うん、飲むのもいいが、少しにしてくれ。はれのあしたを控えている身だ。俺は精進潔斎しょうじんけっさいをしなけりゃならねえ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雨乞のためとて、精進潔斎しょうじんけっさいさせられたのであるから。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「そんなことはどうでもいい。問題は道中では一切精進潔斎しょうじんけっさいだ。守らねば神行の神力が破れてしまう。守れるか」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なお有名な、彼の「五輪書ごりんのしょ」は、翌々年の寛永二十年、熊本郊外の岩殿山の洞窟にこもって、精進潔斎しょうじんけっさいして、書いたもので、彼の死す、前々年の著述である。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、侍側じそくも諸将も、またあらゆる文化面の人たちも、信長にまみえるときは、精進潔斎しょうじんけっさいの心地で接しる。挙止一語半句、みだりにも笑わず、かりそめに戯れない。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
謹厳をきわめた精進潔斎しょうじんけっさいぶりと、そしてまた、五輪書そのものの書出し——序文を一読しただけでも、髣髴ほうふつとして、霊巌洞れいがんどう中の、一居士のそうした姿が眼にうかんでくる。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三度のおまんまをいただいている仕事道具をこんなにされ、親方が精進潔斎しょうじんけっさいして彫った碑銘まで、あんなに土足で踏みにじられているのに……べら棒め、だまっていられるかってんだ。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先君御落命の報らせをうけて以来、高松から当地にいたるまで、お許らも見て来た通り、筑前は精進潔斎しょうじんけっさいを守って来たが、ここ尼ヶ崎の地は、すでに敵の明智軍とも指呼しこの間近にある。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
に服して、今日から七日の間、尊氏は酒、魚鳥を口にせず、別行べつぎょう精進潔斎しょうじんけっさい)をろうとおもう。そしてあすは内山にて、亡き妙恵をとむらうであろう。衆僧に用意をつたえておくがいい」
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)