つぼ)” の例文
佐佐木氏は、三十一文字みそひともじの講釈と、ビスケツトを食べるために、母親おふくろが態々産みつけたらしい口もとをつぼめて言つた。夏目博士はにやりとした。
おつたはしめつた手拭てぬぐひいくつかにつてつかんだまゝくりそばいた洋傘かうもりつぼめてゆつくりとうち這入はひつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
彼は帆布で縫いぐるみにされて、火床の鉄棒を二本おもりに入れられる。帆布に縫い込まれた彼は、人参か大根のように見える。頭の方が拡がって、足の方がつぼまっている。
グーセフ (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
そこでつぼめて、逆上のぼせるばかりの日射ひざしけつつ、袖屏風そでびょうぶするごとく、あやしいと見た羽目の方へ、袱紗ふくさづつみを頬にかざして、しずかに通る褄はずれ、末濃すそごに藤の咲くかと見えつつ。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
口をつぼめて火を吹いている、ぎわの詰ったお増のけた顔を横から眺めながら、お庄は毎日弁当を持って図書館へ通っていた芳村の低い音声や、物優しい蒼い顔を想い出していた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
紀久子はパラソルをつぼめながら言った。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
と、べそを掻くやうな声で訴へてゐたが、それでも談話はなしが済むと今不足を言つたばかしの口を、鼠のやうにつぼめて、美味うまさうに味噌汁をすゝつてゐたといふ事だ。
目立たぬ黒絣くろがすり単衣ひとえのうえに、小柄な浅山のインバネスなどを着込んで、半分つぼめた男持ちの蝙蝠傘こうもりがさに顔を隠し、裾を端折はしょって出て行くお庄のとぼけた姿を見て、従姉あねは腹を抱えて笑った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
博士は杏でも食べたやうに急に口をつぼめた。そして其辺そこらに聞えないやうに一段と声を低めた。
見なれると、この女のつぼまった額の出ていることなどが目についた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
光政は二三日ぜん鷹狩に出掛けた折、みちで食つた蜜柑みかんの事を思ひ出した。光政は繍眼児めじろのやうに口をつぼめて、立続けに三つばかし食つたやうに思つた。蜜柑は三つとも甘味うまかつた。
早稲田大学で国文学の講義をしてゐる人に五十嵐ちから氏がある。初めて京都へ来てみて、加茂川が自分の想像と大層違つてゐるのを見て、女のやうな上品な口をつぼめて変な顔をしてゐた。