おとしあな)” の例文
だからそこに云うに忍びない苦痛があった。彼らは残酷な運命が気紛きまぐれに罪もない二人の不意を打って、面白半分おとしあなの中に突き落したのを無念に思った。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
されどなほその火を躍り越えて入り来たるにより、つひには馬の綱を解きこれを張り回らせしに、おとしあななどなりとや思ひけん、それより後は中に飛び入らず。
遠野物語 (新字旧仮名) / 柳田国男(著)
落ちたら出る事ならぬおとしあなや木葉にもち塗りて虎にねばりつき狂うてついに眼が見えぬに至らしむる設計しかけ等あるが、欧人インドで虎を狩るには銃を揃え象に乗って撃つのだ。
二人は悪戯いたずら盛りのころから、小学校で知り合った。子猿こざるみたいなコーンはクリストフに悪戯をしかけた。クリストフはそのおとしあなにかかったのを知ると、ひどい返報をしてやった。
それを払いかねて木部が命限りにもがくのを見ると、葉子の心に純粋な同情と、男に対する無条件的な捨て身な態度が生まれ始めた。葉子は自分で造り出した自分のおとしあなにたわいもなく酔い始めた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
私をたくらみのある道樂者——あなたを企らんで張つたおとしあなの中に引き込み、あなたの名譽をぎ、あなたの自尊心を盜まうとして、清廉な愛をよそほつてゐた低いいやしい放蕩者だとお思ひになる譯ですね。
だから其所そこふにしのびない苦痛くつうがあつた。彼等かれら殘酷ざんこく運命うんめい氣紛きまぐれつみもない二人ふたり不意ふいつて、面白おもしろ半分はんぶんおとしあななかおとしたのを無念むねんおもつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
されどなおその火を躍り越えて入り来るにより、ついには馬のつなきこれをめぐらせしに、おとしあななどなりとや思いけん、それよりのちは中に飛び入らず。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
(その男も彼をおとしあなに陥れた同類だと信ぜらるる理由があった。)——オイフラートにとってもまたクリストフにとっても仕合わせなことには、舞台へ通ずるとびらまっていた。
あの厭はしいソーンフィールドホオル——この呪はれた場所——エイカンの天幕テント——大空の光に、生ける屍の物凄さを與へる、この不遜なおとしあな——我々が想像するやうな場所よりも、もつと惡い、本當の