禿鷹はげたか)” の例文
青年は右手に半ば諏訪山すはやまにかくれて禿鷹はげたかの頭のやうに見える真黒な丘をさしてかう云ふと、俯向うつむき乍ら下駄の歯で士を掻いてゐた。
もしラヴァーテル(訳者注 人相学の開祖)がその面相を見たならば、禿鷹はげたかと代言人との混同した相をそこに見いだしたであろう。
そこで禿鷹はげたかはなお迷いました。そして方々の山へ行ってはたずねましたが、どの山もみな国中で一番高いのは俺だというのです。
コーカサスの禿鷹 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
脱毛期だつもうき禿鷹はげたかのような頭をしているくせに若い者と美しいむすめを張合ってみじめに敗れた老人の話をした時、聴衆がドッと笑った。
狐憑 (新字新仮名) / 中島敦(著)
しそこに越えることの出来ない溝渠こうきょがあるというならば、私はむしろ社会生活を破壊して、かの孤棲こせい生活を営む獅子しし禿鷹はげたかの習性に依ろう。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
……いえ、いえ。いくら李逵が嫌のなんのといったって、師の呪縛じゅばくにかかっては、ネを抜かれた禿鷹はげたかも同様で飛び立つことはできません。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
氷河の懸つた山の上には禿鷹はげたかの影さへ見えなかつた。が、背の低い露西亜ロシア人が一人、執拗しつえうに山道を登りつづけてゐた。
或阿呆の一生 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
数羽の禿鷹はげたかコンドルを壁の根もとに一列につないでおいて、その前方三ヤードくらいの所を紙包みにした肉をさげて通ったが、鳥どもは知らん顔をしていた。
とんびと油揚 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
四馬剣尺が、ふところより取りだした紙片かみきれをみて、机博士は禿鷹はげたかのようにどんらんな眼を光らせた。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
禿鷹はげたかたたかってるボンのプロメテウスたるベートーヴェンも、オッサ山の上にペリオン山をつみ重ねて天をののしってるその子弟たる巨人族も、かつて神の微笑ほほえみを瞥見べっけんしたことさえなかった……。
禿鷹はげたかは初め、山の神から一番高い山を聞き出すつもりでしたが、話がそんなふうになって、とうとう聞きそびれてしまいました。
コーカサスの禿鷹 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
火旋風ひつむじと共に走り出して来たのを見ると、それは不死人が都から連れて来た手下の禿鷹はげたか蜘蛛太くもた、穴彦などという一連の出没自在な剽盗ひょうとう仲間であった。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鉄格子てつごうしと手錠とで禿鷹はげたかの幽閉されてる墓穴の中を吹き過ぎていたが、なおいっそう酷烈悲壮なる朔風きたかぜは、これらのはとのはいってるかごの中を吹いていた。
この豊かさを求める三造の気持が、伯父自身の中に、——その人間の中に、その言動の一つ一つの中に見出される禿鷹はげたかのような「鋭い乏しさ」に出会って、烈しく反撥するのであろう。
斗南先生 (新字新仮名) / 中島敦(著)
そんなふうにして、禿鷹はげたかはまた方々飛び廻りましたが、どれ一つ自分が一番高いと言う山はありませんでした。
コーカサスの禿鷹 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
白い糞は岩の上にへたばるとも、なお禿鷹はげたかは空にけることをやめない。予の目前にて洒落を侮辱するなかれ! 僕はその価値相当に洒落を尊重する。ただそれだけだ。
仲間同士で呼びあっている名前にしても、八坂やさか不死人ふじとを始めとして、禿鷹はげたかだの、毛虫郎けむしろうだの、保許根ほこねだの、穴彦だの、蜘蛛太くもただのというだけで、これにも職業のにおいはない。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三角の帽子は禿鷹はげたかの形の煙となって消えました。赤と白とのだんだらの服は大蛇だいじゃの形の煙となって消えました。汚れたあさのシャツはなめくじの形の煙となって消えました。
手品師 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
そこへ出向く日、不死人は手下の穴彦、保許根ほこね禿鷹はげたかなどへかたくいいつけた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
禿鷹はげたかのよくやる身振りである。そして彼はいっそう笑顔を深めて答えた。
その中で、身にはぼろをつけてどこからやってきたともわからないきたない道化者らが、この一八二三年にモンフェルメイュの百姓どもに、あの恐ろしいブラジルの禿鷹はげたかの標本を一つ見せていた。
市民らはちょうど禿鷹はげたかについてあひるの騒ぐがような調子であった。
十八 餌食えじきとなれる禿鷹はげたか